2020 Fiscal Year Research-status Report
疲労の慢性化プロセスにおける臨界期の同定と抗疲労・健康戦略への挑戦
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20K21777
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
崔 翼龍 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, チームリーダー (60312229)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 治和 国立研究開発法人理化学研究所, 生命医科学研究センター, チームリーダー (80333293)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 疲労 / ストレス / 恒常性 / 神経・内分泌・免疫 / トランスクリプトーム解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでにさまざまな神経・内分泌・免疫機能の異常が報告されている“水浸疲労モデル”をもとに、“疲労負荷ー疲労回復”のサイクルを短時間で繰り返すし、生体内の恒常性維持機構の機能を撹乱することで、疲労回復を遅延させた慢性疲労モデルの確立に成功している。初年度は日常の疲労蓄積から慢性疲労に陥る臨界期を同定する目的で、疲労負荷を伴う体温や睡眠などの生体信号を経時的に記録し、その調節機構のダイナミックな変化を解析した。結果、疲労負荷によって持続的な体温上昇が現われること、疲労負荷後半には体温が徐々に低下し始めること、げっ歯類での重要な体温調節機構である尻尾での散熱現象が低い体温でより顕著に現れるなど、体温調節機構の異常機能を示唆する所見を得た。また、疲労の慢性化を伴う分子プロセスを検討し、臨界期でのバイオマーカーを同定する目的で、疲労負荷初期、慢性化に陥る臨界期および慢性期において血球のトランスクリプトーム解析を行い、遺伝子発現プロファイルの網羅的な探索を行った。結果、疲労負荷初期にはクエン酸代謝回路などに関わる遺伝子群の発現が活発であるが、疲労負荷後半にはヒトT細胞白血病ウイルス1型や関節リュウマチなどの感染や自己免疫疾患に関わる遺伝子群の発現が活発になることを明らかにした。これらの結果は、疲労の慢性化に伴って、神経・免疫・内分泌など生体の恒常性維持機構の機能が徐々に破綻し、最終的には感染や自己免疫疾患などに関わる分子プロセスが活性化する可能性を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度は、半年の研究期間に加え、コロナ禍などの影響で、研究進捗がやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は、疲労負荷を伴う体温・睡眠調節機能のダイナミックな変化や血中の遺伝子発現プロファイルの網羅的な探索を行った。また、これまでに明らかにした疲労負荷を伴う血中の炎症性サイトカインなどの経時的な変化と考え合わせると、疲労の慢性化には免疫機能や内分泌機能の機能異常など多角的・多階層的な恒常性維持機構の機能異常が関わることを示唆している。そこで本研究では、引き続き関連の器官・組織での遺伝子発現プロファイルを網羅的に探索すし、疲労の慢性化に関わる分子プロセスを解析する。また、その慢性化に関わる免疫・内分泌機能変化と関連する自律神経機能のダイナミックな変化を合わせて検討する。 1)トランスクリプトーム解析およびバイオマーカーを探索:初年度に引き続き、疲労負荷の初期、慢性化に陥る臨界期および慢性期において、関連の器官・組織を対象に遺伝子の転写開始点の発現プロファイルを網羅的に解析し、その転写制御ネットワーク解析、主成分解析から病的な慢性疲労へと変容して行く臨界期の分子プロセスや関連のバイオマーカーを探索する。 2)疲労負荷をともなう自律神経機能の変化を解析:テレメトリー記録システムを用いて無拘束状態で心電図を連続的に記録し、交感神経機能や副交感神経機能を評価できるLF/HFratioや心拍数の変動を解析し、疲労負荷を伴う自律神経機能の異常を評価し、これまでの免疫・内分泌機能変化と合わせて、疲労の慢性化機序を解析する。 3)PETを用いて疲労の慢性化機序を解析:これまでに、疲労負荷の後半において感染や自己免疫関連の分子プロセスが活性化し、疲労の慢性化に関わる可能性を示唆してきた。そこで、本研究では末梢の感染が脳内で疲労感を惹起し、疲労の慢性化を引き起こす機序についてPETを用いて検討する。
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Causes of Carryover |
実質研究期間が半年と短くなっていることと、コロナ禍で研究進捗が遅れていた。
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Research Products
(2 results)