2020 Fiscal Year Research-status Report
次世代人工知能のための海馬機能の集積回路化に向けたナノ構造メモリ素子・回路の研究
Project/Area Number |
20K21819
|
Research Institution | Kyushu Institute of Technology |
Principal Investigator |
森江 隆 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (20294530)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 啓文 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 教授 (90373191)
立野 勝巳 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (00346868)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
|
Keywords | 人工知能ハードウェア / アナログメモリ素子 / 海馬 |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) 銀/硫化銀シェル構造でのアナログメモリ機能の実現(担当:田中・森江) 時間領域演算方式での極低消費エネルギー演算実現の条件は,重みを記憶するアナログ抵抗メモリ素子の抵抗値が極めて高い(> 1GΩ)ことと,電流の逆流防止機能(整流機能)を有することである.これを実現する材料・素子として銀/硫化銀シェル構造を開発し,これをアレイ構造にすること,およびこの作製法を開発し,抵抗値や制御法を最適化するとともに,CMOS集積回路と結合させることが最終目標である.本年度はまず高抵抗性可塑性素子の供給を目指した,銀/硫化銀シェル構造ナノ粒子(Ag/Ag2SNP)の配列時の電気抵抗は,粒子保護膜として存在するリガンド分子の長さなどに起因するトンネル抵抗に起因する.よって,保護膜分子を通常のドデカンチオールから分極性や分子長の異なるチオール基に変更し,安定的に高抵抗値を再現するデバイスの作製法を探求した. (2) アナログメモリ素子を適用したCMOS集積回路構成と海馬モデルへの応用検討 (担当:森江・立野) 高度な脳型AIを実現するために,エピソード記憶機能を実現する脳型モデルを開発する.そのために海馬と嗅内皮質の機能的モデルにより,場所情報とイベント情報を統合して符号化・記憶・処理する.簡単な例として,特定オブジェクトのその場所での有無をイベント情報と考え,オブジェクト-場所細胞を構成する.これは区画化した場所毎のオブジェクトの出現頻度を,そこに配置したアナログメモリに記憶させることを意味する.一般に,場所が2次元であることから,オブジェクト毎に記憶させるためには3次元メモリとして構成するのが自然である.ただし,CMOS集積回路における3次元メモリは技術的には可能なものの,容易に試作ができる状況ではないため,通常の2次元の集積回路上で実装することとして,その回路アーキテクチャを提案した.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
(1) 銀/硫化銀シェル構造でのアナログメモリ機能の実現 チオールで安定化されたAg/Ag2Sコアシェルナノ粒子(AgNP)を凝集させて作った電気デバイスで,ニューロモルフィックな学習スイッチング動作(可塑的メモリ動作)を調べた.チオールには分極性の高いアリルメルカプタンを用いた.AgNPを,二層修正Brust-Schiffrin法を用いて合成した.XPSで同定したところAg/Ag2Sコアシェルナノ粒子の表面では,Ag-SおよびAg-S-R結合状態を示したことからAgイオンの酸化還元反応によるスイッチングが可能であることが分かった.AgNPを凝集させたデバイスは,粒子間のAgイオン室温,常圧下での記憶動作が可能である.室温・常圧下での記憶挙動を確認した後,与える矩形波電圧のオンオフ時間比を調整することで,記憶量の増大減少が操作可能な生体シナプス機能をエミュレートすることができた.つまりは積和演算の重みの増減(可塑性)が制御可能であることが示された.AgNPのほかに安定性の高いAg/Ag2Se NPもしくはナノワイヤを用いることも検討している.また本研究課題遂行中に,AgNP凝集構造デバイスが人工ニューラルネットワークの一つ「リザバー演算」に用いることができることが判明し,一部そちらへの応用も試みた. (2) アナログメモリ素子を適用したCMOS集積回路構成と海馬モデルへの応用検討 オブジェクト-場所細胞ネットワークでは,場所の微小な位置変動に対して頑健になるように,ガウス関数状の神経活動パケットを模擬する必要があり,この機能をいかに効率的に実現するかが鍵となる.これを実現するデジタル集積回路構成を考案するとともに,アナログ回路構成でも実現できる方法を考案した.さらに,エピソード間の関係性を長期に記憶するモデルを考案し,生理学実験で使用されるラットの迷路課題でその有効性を実証した.
|
Strategy for Future Research Activity |
(1) 銀/硫化銀シェル構造でのアナログメモリ機能の実現 Ag/Ag2Sコアシェルナノ粒子(AgNP)を凝集させて作製した可塑性メモリ動作は最終的に抵抗値1GΩ;での同様の挙動を目指すが,現在のところ0.05GΩ;のオーダーであり,さらに高い抵抗値のデバイスを作製する必要がある.現在AgNPの保護膜にアリルメルカプタンを使用しており分子長が1nm程度である.これをヘキサデカンチオール(2nm)など長鎖分子に変更することでNP間距離が広がることにより,トンネルギャップが広がり抵抗が指数関数的に大きくなると考えられる.また,I-Vは非線形で,駆動電圧を低くすることにより抵抗値を相当に高くすることができるため,低電圧での同様の可塑性を示す駆動条件を探索する.アレイ構造の実験も併せて行う.個々のデバイスをナノリソグラフィーを用いて作りこんだうえで挙動を確認する. (2) アナログメモリ素子を適用したCMOS集積回路構成と海馬モデルへの応用検討 考案したディジタル方式のオブジェクト-場所細胞ネットワーク回路をCMOS集積回路(FPGA)に実装し,機能を確認・検証する.また,長期記憶モデルの集積回路化を行う.併せて,ナノ粒子メモリ素子の検討で得られたデバイスの機能を有効に利用できるように,回路構成法を改良する.CMOS集積回路とナノ粒子メモリとの結合法を検討し,予備的な結果を得るための試作を行う.
|
Causes of Carryover |
コロナ禍で大学が閉鎖されたため,実験の優先順位を変更した.そのため年度明けに購入物品が集中したために部分的に予算を越年度させることになった.次年度使用になった予算は消耗品費,学生バイトの人件費,学会参加費,出張旅費などに使用する予定である.
|
Research Products
(18 results)