2020 Fiscal Year Research-status Report
ゴムを食べる細菌がゴムを作る:分子レベルでの有機性廃棄物リサイクルへの挑戦
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20K21861
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Research Institution | Nagaoka University of Technology |
Principal Investigator |
笠井 大輔 長岡技術科学大学, 工学研究科, 准教授 (80452085)
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Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2022-03-31
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Keywords | 天然ゴム分解菌 / ポリイソプレン / イソプレンオリゴマー / プレニルトランスフェラーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
ポリイソプレンから構成される天然ゴムは、タイヤをはじめとする様々な工業分野で利用される不可欠な資源であるが、昨今の世界的な天然ゴム需要の拡大から将来的な価格の高騰や供給量不足が懸念されている。加えて、化石資源を原料とする合成ポリイソプレンゴムの需要も増大しており、将来的にそれらの廃棄物処理による環境負荷が増大する可能性がある。以上の観点から、バイオマスを原料としたポリイソプレン資源の安定的供給の実現が期待されている。 天然ゴム分解菌Nocardia sp. E1株は、細胞外でポリイソプレンをイソプレンオリゴマーへと低分子化して細胞内に取り込むことで代謝する。本株のイソプレンオリゴマーを細胞内で重合することによって、細胞内でポリイソプレンを再合成できる組換え体を作出できると考えた。そこで今年度は、細胞内にイソプレンオリゴマーを蓄積できる変異株の作出を目指して、Nocardia sp. E1株のイソプレンオリゴマー分解に関与する遺伝子の特定と、特定した遺伝子の欠失株の作製を行なった。E1株のポリイソプレン生育時における遺伝子の転写誘導性と遺伝子産物の生化学的な機能解析から、イソプレンオリゴマーの酸化分解に関与すると考えられる1つのaldH遺伝子を見出した。本遺伝子の欠失株は、野生株と同等のポリイソプレン低分子化能を保持していたにも関わらず、ポリイソプレンでの生育に遅延が観察されたこと、さらにイソプレンオリゴマー分解能の低下が認められたことから、本aldH遺伝子がポリイソプレン代謝の中間体であるイソプレンオリゴマーの分解に関与することが強く示唆された。今後は、本aldH遺伝子破壊株を宿主としてイソプレンの重合に関わるcis-プレニルトランスフェラーゼ遺伝子 (cpt)を発現させ、cpt遺伝子産物によるイソプレン重合活性の評価を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、①E1株のイソプレンオリゴマー分解の阻害、②E1株でのイソプレンオリゴマー重合酵素の発現を行い、ポリイソプレン分解と重合の同時反応が可能な変異株を用いたゴム再生系を構築することを目指している。これまでに、項目①について達成している。具体的には、E1株のポリイソプレン生育時における網羅的遺伝子転写解析により転写誘導性が認められた遺伝子を見出した。その中から、イソプレンオリゴマーのアルデヒド基を酸化すると考えられるアルデヒドデヒドロゲナーゼ遺伝子を限定した。大腸菌組換え体の粗酵素を用いた酵素活性測定から、当該遺伝子産物がイソプレンオリゴマーに対する酸化活性を持っていることを確認した。そして、本遺伝子の欠失株を作製した。本遺伝子欠失株のポリイソプレン低分子化能は野生株と同等であるものの、ポリイソプレンでの生育能とイソプレンオリゴマー分解能が低下していることを確認している。以上の結果から、当初の予定通り細胞内でポリイソプレンを再合成できる組換え体の基盤を構築できたと考えられる。今後は、項目②について予定通り進める予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでに作出したaldH遺伝子欠失株をプラットフォームとして、細胞内でポリイソプレンを再合成できる組換え体の構築を行う。具体的には、aldH遺伝子欠失株を宿主として、細菌のイソプレン重合に関わるcis-プレニルトランスフェラーゼ遺伝子 (cpt)を発現させる。また、イソプレン重合能の違いや発現効率の違いを考慮して、パラゴムノキのイソプレンオリゴマー重合酵素遺伝子 (HRT1)も候補としている。HRT1遺伝子を用いる際は、細菌での効果的な発現を達成するために、細菌のコドン使用頻度を基にコドンの最適化を行う。cpt遺伝子または改変した配列を持つHRT1遺伝子を、E1株で利用できるpNC9503ベクターに連結した後、aldH遺伝子欠失株に導入する。導入した遺伝子の発現は、定量PCR解析とウェスタンブロット解析により評価する。 各遺伝子を導入した組換え体をポリイソプレンで生育させた後、菌体を回収し超音波破砕することによって細胞内の蓄積物を回収する。得られた抽出物をGPCおよびHPLC-MSで分析することで、作出したポリイソプレン再合成変異株のイソプレンオリゴマー重合能を評価する。また、菌体濃度、温度、振とう速度などの培養条件を変更することで、最適なポリイソプレン合成条件を検討する。
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