2020 Fiscal Year Research-status Report
転移性骨腫瘍治療を指向した機能性ナノカーボン粒子の創製
Project/Area Number |
20K21914
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
中村 真紀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 材料・化学領域, 主任研究員 (00568925)
|
Project Period (FY) |
2020-07-30 – 2023-03-31
|
Keywords | 転移性骨腫瘍 / ナノカーボン / ビスホスホネート / リン酸カルシウム / 破骨細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
転移性骨腫瘍では、骨に到達したがん細胞が破骨細胞を活性化して増殖することで骨の損傷が進み、患者のQOLを著しく低下させる。本研究では、患部において破骨細胞の活性を低下させ、骨の再生を促進することのできる転移性骨腫瘍治療システムの創製のために、それ自身も破骨細胞増殖抑制効果を有すると考えられるナノカーボンに、治療薬などを搭載した複合ナノ粒子の作製と評価を行う。 今年度は、ナノカーボンとして、直径100 nm程度の球状構造を有し、薬剤送達システムにおける薬剤運搬体としての応用が期待されるカーボンナノホーンを用いて検討を行った。治療薬としては、破骨細胞抑制剤であるイバンドロネートを用いた。強力な疎水基を持たないイバンドロネートは、疎水性の高いカーボンナノホーンにはほとんど吸着しない。そこで、イバンドロネートと親和性の高いリン酸カルシウムを仲介させることでカーボンナノホーンとの複合化に成功した。具体的には、カーボンナノホーン分散液とイバンドロネート溶液をリン酸カルシウムの原料となるイオン水溶液に添加して、カーボンナノホーン、イバンドロネート、リン酸カルシウムの3成分からなる複合ナノ粒子を得た。 破骨細胞の前駆細胞であるマウスマクロファージ様細胞(RAW264.7)、ならびに、RAW264.7を分化させて得た破骨細胞に、作製した複合ナノ粒子を添加して細胞応答を評価した。その結果、複合ナノ粒子は細胞内に多く取り込まれ、細胞増殖抑制効果を示した。一方で、添加した複合ナノ粒子に含まれるのとほぼ同濃度のカーボンナノホーンやイバンドロネートを単独で添加しても同様の細胞増殖抑制効果は見られなかった。細胞内に取り込まれた複合ナノ粒子はリソソーム内に集積していた。よって、リソソーム内の弱酸性環境においてリン酸カルシウムが徐々に溶解し、イバンドロネートを放出、細胞死を引き起こしたと推定した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1年目は、目的とする複合ナノ粒子(治療薬を搭載したナノカーボン粒子)の作製に成功し、細胞応答評価によって破骨細胞増殖抑制効果を確認することができた。これらの成果について、学術論文誌ならびにプレスリリースで発表し、新聞5紙に掲載されるなど、当初の計画以上に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
①複合ナノ粒子の構造・組成の最適化:原料濃度などの作製条件や、治療薬の種類を変化させて複合ナノ粒子を作製する。得られた複合ナノ粒子の構造・組成と細胞増殖抑制効果の関係について考察し、より効率的に細胞増殖抑制効果を示すように複合ナノ粒子の構造・組成を最適化する。 ②メカニズム解析:複合ナノ粒子の細胞増殖抑制効果を検証するために、複合ナノ粒子が細胞死を引き起こすメカニズムの解析を行う。
|
Causes of Carryover |
(理由)本研究課題を円滑に遂行するため、次年度の実験補助者(ルーティーン作業の一部を担当)の雇用期間を延長する必要があり、人件費を次年度に繰り越す必要があった(今年度は所属機関から分配された運営費交付金などで負担)。また、新型コロナウイルス感染症の影響で打ち合わせのための出張が取りやめとなり、さらに成果のプレスリリースを論文発表と同時に行うために学会発表を先送りしたことから(次年度に行う予定)、予定していた旅費や学会参加費を繰り越すこととなった。
(使用計画)実験補助者を雇用するための人件費や、成果の学会発表のための費用として使用する。また、メカニズム解析を行うために必要な試薬が高価であり、それを購入するための物品費などとして使用する。
|