2020 Fiscal Year Research-status Report
近代日本における市民的公共思想の展開―高等教育・宗教・社会事業の連携に注目して
Project/Area Number |
20K21917
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小嶋 翔 東北大学, 学術資源研究公開センター, 協力研究員 (80880921)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 旧制高等学校 / プロテスタンティズム / ユニテリアニズム / 福音主義 / 社会事業 / セツルメント / 社会主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず、主たる考察対象である旧制第二高等学校(仙台)忠愛之友倶楽部(学生キリスト教青年会)の草創期の活動について、基礎的な文献資料・先行研究を渉猟し、時系列に沿った事実関係の整理を徹底して行った。その際、関係する教育機関(中~高等教育)の再編過程(教育史)、キリスト教宣教師団の動向や信仰(キリスト教史・キリスト教思想史)、災害罹災者・貧困者の救済を目的とした各種セツルメント活動(社会史)などの周辺動向に特に注目した。これによって、本研究全体の見取り図を持つことができた。 次いで、草創期忠愛之友倶楽部とその周辺で、本研究課題において特に重要になる人物・出来事を抽出し、その具体的分析を進めている。重要となるのは、旧仙台藩出身者と同志社系キリスト教伝道者の協力で設立された私学中等教育機関・東華学校の廃校(1892年)、及びその後継となる公立の宮城県尋常中学校の新設(同年)という問題である。この問題は、明治新政府への対抗心から「民」の立場を掲げる旧仙台藩出身者が、それ故にキリスト教系私学を擁護するという明治初~中期特有の思想構図を生み出した。そして、(A)この問題に深く関係した世代と、(B)それ以後の世代とでは、その社会思想やキリスト教信仰に異なる傾向が生じた可能性がある。草創期忠愛之友倶楽部についても、このことを踏まえなければ、その活動や思想の同時代的意義は明らかにならないだろう。 具体的には、(A)の代表として栗原基(1876~1976)、(B)の代表として吉野作造(1878~1933)という二人の忠愛之友倶楽部会員を中心に、周辺のキリスト教宣教師や社会活動にも目配りしながら研究を進めている。二人は後に市民的な教育者・学究者として大成した人物であり、忠愛之友倶楽部OBとしての彼等の思想的・社会的成果は、戦前日本における高等教育と宗教が生み出した市民的公共思想と評価できるのではないか。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルス感染拡大により、予定していた遠方での資料調査が行えなかったこと、図書館など大学施設の利用が満足にできなかったこと、研究発表の機会が得られなかったことなどから、当初の見込みからは異なっていることもある。しかしその分、基礎文献の整理を丁寧に行うことができ、周辺的な事柄についてもかなり細かく研究していく手がかりを得ることができた。今後は成果をまとめていくことを念頭に取り組んでいく。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナウィルス感染拡大の状況が変わらないため、研究計画はある程度柔軟に考えざるを得ない。まずは可能な範囲での文献渉猟を徹底して進めつつ、特に注目すべきであると考えられる人物間(栗原基―東華学校以前世代/吉野作造―東華学校以後世代)の影響関係や思想・行動の比較を具体的に検証していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響により、予定していた遠方への資料調査がまったくできなかったこと、また参加予定だった学会が中止になったかオンライン開催に移行したことがいちばんの原因である。今後は必要な研究資料の購入を進めるともに、可能な範囲で資料調査も予定していたものを行いたい。
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