2020 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study of Early Modern Catholic Texts in Asian Languages - on Gewu Qiongli Bianlan, a Chinese catechism published in Manila
Project/Area Number |
20K21921
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
WANG WENLU 東京大学, 東京カレッジ, 特任研究員 (50876232)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | カトリック教理書 / 世界宣教 / マニラ / 格物窮理便覧 / 使徒信条入門 / ひですの経 / 比較 / TEI |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、17世紀初頭にフィリピン・マニラで刊行された漢文キリスト教文献『格物窮理便覧』を主要な考察対象として、近世のキリスト教とアジアとの出会いの過程で生じた思想交流における、超地域的な関連や、普遍的な特徴を明らかにするものである。研究目的は、1)同書の内容や総体的な特徴を、スペイン語原典や、キリシタン版と比較を通して明らかにする、2)中国語と日本語の翻訳との間における異同を明らかにし、そこに見られる超地域的な関連や、普遍的な特徴を考察する、3)人文情報学の手法を利用して、国際標準規格に準拠するデジタルテキストを構築することである。 本年度では、以上の三つの目的に向けて研究を進めてきた。『格物窮理便覧』、スペイン語原典の『使徒信条入門』、日本語訳である『ひですの経』の解読および分析を行い、『格物窮理便覧』第一巻のみが三者共通の内容であることが明らかになった。そして、『ひですの経』に『聖書』からの引用が多く、信仰書の特徴が目立つのに対して、『格物窮理便覧』には同程度の引用が確認されなかった。一方、身体や天体等被造物に関する説明がより詳しい。この現象は、『格物窮理便覧』のタイトルからも窺われるように、日常生活に関わるあらゆる事項を説明する日用類書の影響があるのではないかとの仮説を立てた。デジタルテキストの構築の面において、第一巻のテキストの構造化と同書形式上の特徴を示す声点のマークアップを行った。 以上の研究成果に基づき、現在論文執筆及び国際学会発表の準備を進めている。日本語訳と中国語訳の相違や対応関係をテーマとして、論文(中国語)をまとめている。国際学会発表(英語)は、『格物窮理便覧』と『ひですの経』における知の体系の対話と混合をテーマとしている。日本科学史、日本文学と日本思想史の研究者4名とパネルを組み、ヨーロッパ日本研究協会第16回年度会議に応募し、採択された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は研究開始時に設定した第一段階にあたり、同年度で実行する具体的なタスクは、1)関係資料の収集、解読、2)『格物窮理便覧』のデジタルテキストの作成と予備的なマークアップであった。 感染症流行のため国内外の調査が困難であったが、オーストリア国立図書館、ライデン大学図書館、フランス国立図書館を中心に、海外の蔵書機関のデジタル・アーカイブ、デジタル・コレクション等を利用し、資料収集に努めた。国内では、主に東京大学史料編纂所、国会図書館で関連資料を収集した。『格物窮理便覧』との対応関係を意識しつつ、スペイン語原典であるグラナダ著『使徒信経入門』および日本語訳であるキリシタン版『ヒイデスの導師』と『ひですの経』の解読と分析を進めた。 デジタルテキストの作成とマークアップに関しては、以上に述べた解読・分析結果を踏まえ、日本語訳に対応する『格物窮理便覧』の第一巻(全書の三分の一、5万字超)を中心に行なった。データ入力後に、校正や異体字同定の工程を経て、テキストの構造およびフォーマット上の特徴を明示するために必要なマークアップを施し、デジタル学術編集版をTEI XML形式で作成した。第二巻と第三巻のデータ入力も現在進行中で、令和3年7月に完成予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は引き続き本研究の計画中に掲げている、1)『格物窮理便覧』の内容と特徴の解明、2)同書から見られる東西思想交流における超地域的な関連や、普遍的な特徴の考察、3)国際標準に準拠したデジタルテキストの構築・公開の三つの目標に向けて研究を進める。 1)と2)については、原典、中国語訳、日本語訳の対応関係を明らかにするために解読と分析を引き続き行う。前年度の研究成果を踏まえ、今年度は、段落レベルの対応関係、重要な神学・哲学概念の翻訳に注目し、さらに綿密な分析を行う予定である。そして『格物窮理便覧』の思想的源泉や中国思想文化への適応について明らかにするため、同書の中国語書情報源の同定に努める。とりわけ、マニラで流布した可能性がある類書を精査し、『格物窮理便覧』に及ぼしえた影響を考察する。3)に関しては、デジタルテキストのマークアップを引き続き行う。さらに、構築したデジタルテキストを現在公開されている『格物窮理便覧』および『ひですの経』のIIIF規格デジタル画像とリンクさせることを目指す。 オーストリア国立図書館(ウィーン)とフランス国立図書館(パリ)の海外調査を夏に予定しているが、国際的な感染症の流行が一向に収束しないなか、実施できない可能性も考えられる。代替策として、複写またはデジタル撮影の依頼、そして現地の研究者または大学院生の協力のもと資料収集を行うことを検討している。 研究成果の発表関連では、研究実績で言及した中国語論文および国際学会の発表のほか、これまで研究交流してきたキリシタン文献と東西交流史分野の研究者(現在総計4名)とパネルを組み、2022年3月に開催されるアジア研究協会の年次大会への応募を準備中である。デジタルテキスト構築の課題をテーマに、2022年度内に開催される「人文科学とコンピュータ研究会」の口頭発表に応募する予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ・ウイルスによる感染症の流行のため、本来予定していた京都と大阪における研究調査が実施できなかった。同様の理由で、国際学会への応募を見送った。これに伴う未使用分の経費は、次年度に実施する予定の国内調査、および応募・参加する予定の国際学会の旅費に当てる予定である。
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