2021 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study of Early Modern Catholic Texts in Asian Languages - on Gewu Qiongli Bianlan, a Chinese catechism published in Manila
Project/Area Number |
20K21921
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
WANG WENLU 東京大学, 東京カレッジ, 特任研究員 (50876232)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
|
Keywords | カトリック教理書 / 世界宣教における地域間比較 / 格物窮理便覧 / 翻訳 / 知識体系の対話 / マニラ・インキュナブラ / キリシタン版 / TEI |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、前年度の関係資料の収集、解読、デジタル・テキストの作成と予備的なマークアップの成果に基づき、さらに研究を進めた。大まかな対応関係が明らかになった『格物窮理便覧』、スペイン語原典『使徒信条入門』、日本語訳である『ヒィデスの導師』と『ひですの経』の共通部分に注目し、文章、語彙レベルのよりミクロな比較を行い、漢訳と日本語訳における相違点を考察した。その際に、とりわけ各現地語訳に用いられた意訳や音訳に付属した解釈に着目し、在来の知識体系から由来する概念が翻訳に介入、影響する働きを考察した。 デジタル・テキストの構築については、画像のみでは判読が難しい箇所があり、原本調査にて補完する予定であったが、コロナウイルス流行のため、予定していたオーストリア国立図書館での調査が実施できなった。しかし、ローマイエズス会文書館所蔵本のデジタル画像が近頃公開されており、ほかの蔵本に欠けていた同書内容の目次が収録されていることが判明した。出版当時に著者がどのような構造で同書を執筆したかがより明らかになった。この新出資料によって、報告者が現在進めているマークアップをさらに改良できた。 以上の研究成果に基づき、報告者はヨーロッパ日本研究協会(EAJS)第16回年度会議において、漢訳と日本語訳に見られる知の体系の対話と混合というテーマで、Daniel Said Monteiro (パリ大学)、Drisana Misra (イェール大学)、Federico Marcon (プリンストン大学)の4名の研究者とパネルを企画して発表した。発表に基づく論文の執筆も進めた。また、学習院大学東洋文化研究所連続講座第50回「東アジア書誌学への招待」の公開講演に招待され、本研究の一部、とりわけマニラ・インキュナブラとしての『格物窮理便覧』の形態上の特徴を報告した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和3年度は研究開始時に設定した第二、三段階にあたり、海外における原本調査と資料収集、そして海外学会(対面開催、ハイブリッド開催)への応募を予定したが、コロナウイルスの流行が世界中で続くなか、実施を見送らざるをえなかった。そのため、本来の研究計画より遅れている。 海外での原本調査はできなかったが、新たに入手したイエズス会文書館蔵本の画像を、入手済みのライデン大学図書館蔵本やオーストリア国立図書館蔵本の画像と比較することで、テキストの入力、異体字の同定、構造化するためのマークアップは順調に進んだ。これらの作業の基礎があるため、今後予定する原本調査も効率よく行うことができる。 さらに、海外調査の代わりに、スペイン語原典、キリシタン版の『ヒイデスの導師』と『ひですの経』の解読に力を注ぐことができた。それらのテキストと漢訳『格物窮理便覧』の大まかな対応関係は明らかになり、個別箇所のミクロレベルの比較もできた。『格物窮理便覧』における中国知識の源泉について、主に所属機関の図書館や国会図書館で閲覧可能な類書を中心に調査した。 以上の研究成果を踏まえ、漢訳と日本語訳との相違や対応関係を内容とする論文(中国語)とヨーロッパ日本研究協会(EAJS)第16回年度会議での発表に基づく論文の執筆を進めた。 以上の通り、本来の計画よりやや遅れているが、一定程度の成果が挙がったため、延長が認められた年度では、本来の研究計画で掲げた研究目的の達成が見込まれている。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究では当初、①『格物窮理便覧』からみたキリスト教の思想文化がアジアの現地語に翻訳された過程における地域特性および超地域的な特徴の解明、②研究基盤としての『格物窮理便覧』のデジタル・テキストの構築という二本柱の目標を掲げた。最終年度では、①についてはこれまで部分的に解明できたことを総合的に再検討し、研究会等で意見交流を図ることで、深めた知見を論文にまとめる。②については、データのマークアップを完成し、公開に向けて準備を進める。 ①については、これまでの研究で明らかになった漢訳、スペイン語原本、日本語訳の対応関係を踏まえ、翻訳過程におけるより細かな改変に注目して、各現地語訳に見られる知の対話の表象の異同を究明する。研究の最終段階では、特に研究交流に力を入れたい。さまざまな研究分野の研究者との議論や意見交流を通して、これまでの予備的な研究成果における課題を、さらに洗い出し、他分野との繋がりも念頭に置いて、総合的な考察を行う。報告者は現在、研究発表と意見交換、国際学会応募への準備を行うために、宣教師が仲介する文化交渉を研究する若手研究者と定例研究集会を企画している。今年度は、この研究会の場を活用し、昨年度コロナウイルスの拡大により応募を見送ったアジア研究協会(AAS)の年次大会(2023年3月開催)に応募する。 ②に関しては、まずは、デジタル画像により判定困難な箇所を原本調査で補完し、デジタル・テキストの構造的特徴を示すマークアップを完成する。その上で、現在参加している人文情報学の研究グループの専門家の意見を参考にしながら、マークアップをさらに改善し、公開の準備をする。具体的には、ライデン大学図書館が公開するIIIF規格デジタル画像と同データを連携させ、データ公開先のプラットフォームを検討する。
|
Causes of Carryover |
コロナウイルスの流行のため、本来予定していた国内および海外における研究調査が実施できなかった。同様の理由で、国際学会への応募を見送った。これに伴う未使用分の経費は、国内調査(京都大学人文科学研究所、関西大学)、海外調査(オーストリア国立図書館、フランス国立図書館)、および応募・参加予定の国際学会(アジア研究協会2023年年次大会)の旅費に当てる予定である。また、関連する欧文、和文、中国語の研究文献の複写や購入、さらに国際学会への応募や論文の投稿の際に行うネイティブチェックの経費にも当てる。
|