2022 Fiscal Year Research-status Report
Comparative Study of Early Modern Catholic Texts in Asian Languages - on Gewu Qiongli Bianlan, a Chinese catechism published in Manila
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20K21921
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
WANG WENLU 東京大学, 東京カレッジ, 特任研究員 (50876232)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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Keywords | 知の翻訳 / 知的環境 / 地域性 / マニラ / TEI / Digital Critical Edition |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度では、引き続きデジタルテキストの構造化作業と内容考察の両方面で研究を進めた。内容考察については、これまで漢訳と日本語訳の共通部分に注目し翻訳の比較研究を中心に研究を行った。本年度はスペイン語原典と日本語訳の両方に対応箇所が見当たらない『格物窮理便覧』の第二巻と第三巻の分析に注力した。そこに見られる儒教、歴史、民間宗教の知識の源泉を検討した。「四書」・「綱鑑」系統の史書が重要な位置を占め、中下層知識人の知的環境が反映されていることが明らかになった。デジタルテキストの構築に関しては、校正と段落の構造化を行った。また、公開に向けてインタフェース等の技術的な点を専門家と検討し、参考になる国内外の関連プロジェクトを調査し、方向性をある程度固めた。
以上の研究成果に基づき、国際学会で発表を行った。アメリカ・ボストンで開催されたアジア研究協会(AAS)2023年大会では、マニラにおける知的交流の地域的な特徴をテーマに、新居洋子氏(大東文化大学)、Daniel Said Monteiro氏 (パリ・シテ大学)、Friederike Philippe氏(ベルリン自由大学)の3名の研究者と企画したパネルで発表した。そのほか、2023年8月にベルギー・ゲントで開催予定のヨーロッパ日本研究協会(EAJS)第17回年度会議に採択され、キリスト文献と動物の異文化翻訳をテーマに、Drisana Misra氏(イェール大学)、Lianming Wang氏(香港城市大学)、Morgan Pitelka氏(ノースカロライナ大学チャペルヒル校)の3名の研究者と企画したパネルで発表する予定である。デジタルテキスト構築の過程や課題については、2023年9月にドイツ・パーダーボルン大学で開催予定のText Encoding Initiative(TEI)年次大会のポスター発表に応募した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
感染症の流行によって海外渡航が困難の状況が続くなかで本研究の根幹となす原本調査が実現していないためテキスト構築の面では遅れている。しかし、計画より研究期間が確保できたため、国際発表(オンライン含む)は、本来計画の一件より大幅に上回って総計四件に上る見込みとなり、一定程度の成果が挙がった。
今年度には三年ぶりに対面の国際学会に参加し、本研究について報告を行って、分野内外の研究者と有益な意見交換ができた。特にドミニコ会の福建宣教についてこれまで先駆的な研究を行ってきたEugenio Menegon教授(ボストン大学)にパネルコメンテーターをしていただけたことで、マニラ華人集住地やスペインとの往来について貴重なアドバイスをいただいた。学会前後では、ボストン大学で開催された中国キリスト教史研究関連のセミナー等で同分野の研究者と交流を深めた。また、学会開催地のボストンにあるハーバード大学総合図書館や燕京図書館、そして前年サンフランシスコからボストンに移ったアメリカにおける中国キリスト教史研究の拠点であるリッチ研究所で資料調査を行い、スペイン語の新出歴史資料等を含めて、欧文の最新研究資料を入手できた。
本研究のもう一つの課題であるデジタルテキストの構築に関しては、テキスト入力、校正、チャプター・セクション・段落レベルの構造化を終えた。そして、公開までの手順や公開にかかわるインフラ構築について協力いただいている人文情報学の専門家と検討を重ねた。その結果、『格物窮理便覧』は分量上現段階で全ての要素をマークアップすることは不可能である他、スペイン語・日本語テキストが著作権関係上利用困難であることが判明した。従って、公開は『格物窮理便覧』の構造化本文と利用可能なデジタル画像に限定し、段落よりさらに細部のマークアップは、ヨーロッパ言語より音訳・意訳された概念を中心に行うという方向を固めた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では主として以下の二つの課題を取り組んでいる。①『格物窮理便覧』からみたキリスト教の思想文化のアジアの現地語への翻訳過程における地域特性および超地域的な特徴の解明、②研究基盤としての『格物窮理便覧』のデジタルテキストの構築である。
①に関しては、これまでの研究過程で参加した国際学会において、本研究の論点をより明確にし、より広い視野で本研究を位置付けるための様々な貴重な意見を得た。次年度の最終年度には、採択済みの国際学会の発表に向けて研究を引き続き進めながら、これまでの会議論文の修正と投稿に注力したい。昨年度の実施状況報告書で言及した企画中の宣教師を仲介とする文化交渉を研究テーマとする若手研究者との定例研究集会(新居洋子氏、殷晴氏と共同運営)は、昨年の10月に始動し、月一回の頻度で開催し続けている。毎回の研究会では一人の研究者が報告を行い、十数名の参加者がそれにフィードバックするかたちで進めている。本研究の成果発表に向けて論文ドラフトの討論などで活用したいと考えている。
②のデジタルテキスト構築については、現在計画中の翻訳語のマークアップを終え、これまでの構造化作業とテキスト入力の校正を行う。そして、TEI Headerのメタデータを重点的に充実化し、TEIデータを仕上げていく予定である。同時に、これまでご協力をいただいている人文情報学の専門家と共同で、完成したデータを公開するためのインフラを整えていく。技術的な難点はまだいくつか存在しているため、報告者が定期的に出席している東京大学人文情報学リサーチハブやTEI研究会といった国内の人文情報学の研究者の集まりを活用して、アドバイスをいただきながら、データ公開に向けて準備を進めていく。また、データ公開後の維持管理と利活用についても研究期間が終了するまでに方向性と指針を決めたい。
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Causes of Carryover |
コロナウイルスの流行のため、本来予定していたオーストリア国立図書館における原本調査が実施できなかった。これに伴う未使用分の経費は、参加予定の国際学会(ヨーロッパ日本研究協会(EAJS)第17回年度会議およびText Encoding Initiative(TEI)2023年年次大会)の旅費に当てる予定である。また、論文投稿の際に行うネイティブチェックの経費にも当てる。
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