2020 Fiscal Year Research-status Report
Marginalisation, Colonial Experience, and Reimagining of Christianity: Focusing on a British Missionary in the East Asia
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20K21928
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
三野 和惠 京都大学, 教育学研究科, 助教 (40882618)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 日本植民地期台湾(1895-1945) / 台湾基督長老教会 / イングランド長老教会 / キャンベル・N・ムーディ(1865-1940) |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、思想・信条における排他的自他認識の問題やその克服の可能性を歴史的に考察することを目的に、日本統治下台湾(1895-1945)にて「西洋的近代」と癒着するキリスト教像を問い植民地主義への懐疑的姿勢を表明したスコットランド人宣教師キャンベル・N・ムーディ(1865-1940)に着目する。具体的には、上記の思想的作業にムーディ自身の背景―大英帝国の政治的・宗教的中心たる「イングランドー英国国教会」に対して、非国教会派スコットランド人としての周縁性を有したことがいかに関わっていたのか、またその思想的作業がなぜ他ならぬ台湾で可能とされたのかを明らかにするため、①ムーディとその家族構成員、とりわけ在英スコットランド人移民二世であった妻ペギー・C・アーサー(1891-1959)のライフヒストリーの包括的再構成、②ムーディが所属した在台イングランド長老教会の宣教事業の性格を明確化する参照軸として、彼が一時期関与した(1901-1902)同教会の英領マラヤにおける宣教の分析に取り組む。 このため2020年度には国内外での史料収集を遂行する予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行状況の長期化を受け、海外出張や国内外の他の研究機関図書館サービスの利用が思うようにはできなかった。一方で、大英帝国史に関わる先行研究の収集・検討に力を入れ、関連する考察を国内学会(オンライン)にて発表した他、これまでに収集してきた史資料の整理を進め、上記①に関わるアーサーのライフヒストリーの概要を可能な限り再構成し、今後不明点を明らかにするために必要な史料群とその所在地を把握した。また②の在マラヤ・イングランド長老教会の宣教事業に関わる史料群の整理・翻訳/翻刻作業を実施し、事実関係の確認を含む基盤的作業を進めた。これらの作業の遂行により、2020年度の研究活動はおおむね順調に進展した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度には新型コロナウイルス感染症流行状況の長期化のため本研究が最も重点を置くスコットランド・マレーシア等での史料収集の延期を余儀なくされた。また各地のロックダウンや人員削減体制等の導入により遠隔地研究機関の図書館や書店の利用にも予期せぬ遅れが出たため、当初計画したペースでの史料収集の実施は困難であった。一方で報告者はこの間、①大英帝国史・帝国影響圏におけるスコットランド人の移動に関わる先行研究の収集・検討、②ムーディの妻で在英スコットランド人移民二世であったペギー・C・アーサーの伝記的研究、③在マラヤ・イングランド長老教会に関わる一次史料群の整理・翻訳/翻刻作業、及び④研究成果の発表、を遂行した。 ①ー③は本研究課題の欠かせない基盤的作業であり、中でも①ではスコットランド人意識(周縁的アイデンティティ)と帝国意識(中心への志向)との協調関係に関わる具体的事例の検討、③では包括的な先行研究が少ない当該トピックに関する事実関係の整理に重点を置いた。また②では、これまでの研究作業で収集してきた史料をもとにアーサーのライフヒストリーの骨子を包括的に再構成し、彼女の教育経験等に関するより詳細な事実関係を確認するための史料群の所在地を把握した(エディンバラ大学蔵「ロジアン医療アーカイブ」等)。④では、とりわけ①の作業を踏まえ「帝国間移動」の観点からムーディの宣教論の変遷を検討した論考「「仕えられるためにではなく、仕えるために」:日本植民地支配下台湾のスコットランド人宣教師とその宣教論の変遷」を日本植民地研究会第28会全国研究大会共通論題への招待報告で発表した(2020年11月9日)他、ムーディと他の在台宣教師バークレー(1849-1935)の聖書翻訳の手法を比較検討する英文論考を執筆し、2021年度にRoutledge社より出版される共著の一章として提出した(印刷中)。
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Strategy for Future Research Activity |
現時点では、本研究の主たる活動内容である国内外での史料収集とフィールドワーク等(スコットランド、マレーシア及びシンガポールへの出張を含む)が可能となる時期の見通しがつきにくいため、今後の研究推進においては引き続き遠隔地の研究機関図書館及び書店のオンライン・サービスを通じた史資料の収集・整理検討に力を入れる。具体的には、上記②のアーサーの伝記的研究に関わり、エディンバラ大学研究資料センター蔵「ロジアン医療アーカイブ(Lothian Health Service Archive)」、及びスコットランド国家図書館蔵「女性宣教新聞(News of Women’s Missions)」(1904-26年)等への遠隔アクセスの可否を確認し、可能であれば取り寄せをする計画である。 同時に、2021年度には研究成果の発表及びそのための準備作業に重点を移行する必要があると考える。とりわけ、報告者は2017年にオックスフォード大学で開催された「Historical Legacies of Christianity in East Asia: Bridging a New Generation of Scholars and Scholarship」国際学術ワークショップへの参加者として、英訳及び最新の研究成果に基づく修正作業を施した著書(2017年)の原稿を、リッチ中西文化歴史研究所及びブリル学術出版社が共同刊行しているStudies in the History of Christianity in East Asiaシリーズから出版することを予定している。したがって同書を早期に国際的な議論の場に開かれたものとするためにも、2021年度にはこれまでに報告者自身が英訳した原稿の英文校正、及び未翻訳箇所の英訳を業者に依頼することで作業ペースを早め、出版の準備に着手することを計画している。
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Causes of Carryover |
2020年度には、新型コロナウイルス感染症流行状況の長期化のため本研究が最も重点を置く国内外での史資料の収集及びフィールドワーク(スコットランド、マレーシア及びシンガポールにおける国家図書館及び他の研究機関アーカイブへの訪問調査を含む)の延期を余儀なくされた。また、各地でのロックダウンや人員削減体制等の導入により、遠隔地の研究機関図書館や書店の利用にも予期せぬ遅れが出たため、当初計画したペースでの史資料収集及びこのための予算執行が困難であった。このため、2021年度には研究成果の発表及びその準備に重点を置き、報告者の著書(2017年)の英訳出版(著書の原稿に本研究の成果を踏まえた修正を施しつつ英訳したものを出版する)の準備に関わる英文校正、及び未翻訳部分の英訳依頼等の人件費に充てがうことを計画している。同時に、現時点ではスコットランド等ロックダウンを解除されつつある地域もあることから、引き続きオンラインによる遠隔地の研究機関図書館及び書店との連絡、及び史資料の収集に力点を置き、渡航制限が解除される場合には即座に現地への調査訪問を行うことができるように体制を整える。
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