2020 Fiscal Year Research-status Report
「遊行上人縁起絵」諸本の基礎的研究:転写系統の分類と祖本の復元的考察
Project/Area Number |
20K21930
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
本多 康子 大阪大学, 文学研究科, 助教 (80881979)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | 時宗(時衆) / 模本 / 祖師絵伝 / 遊行上人縁起絵 / 転写 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究業績は、藤澤古縁起を底本とする近世転写本の傾向と分析、および諸本間における同一場面分析を試みた。概要は以下のとおりである。 1、清浄光寺乙本を中心に、焼失した藤澤道場古縁起本(旧国宝本)を底本とする近世転写本(光明寺本、東博模本)の諸相について分析・考察した。この一連の転写本は、他本と比べて諸本間における異同が極めて少なく、特に藤澤古縁起の原本を忠実に臨模する製作態度がうかがえる。また、諸本に附属する奥書などから当時の藤澤古縁起を推察すると、しばしば遊行上人が携行し天皇や貴顕らにも披歴され、さらに詞書が遊行上人手ずから補筆したとの記録から、縁起絵群のなかでも特に重要視されていたことを明らかにした。 2、特に時宗の立教開宗の契機となる第1巻第2段「熊野権現神託(熊野成道)」場面に着目し、諸本間における同一場面との比較検討を行い、特に長頭巾を被った老山伏姿で顕現する熊野権現の図様の淵源について考察した。熊野権現の示現は、従来、本持仏である阿弥陀如来や垂迹神・家津御子神として俗人男性として描写されることが多く、このような山伏姿で表わすのは、「一遍聖絵」と「遊行縁起」諸本の時宗絵巻以外では類例がない。中世熊野において、熊野先達とよばれる山伏は、熊野詣での参詣者の旅程の便宜を図り、精進潔斎などの諸儀式の指導などを取り仕切っており、早くから熊野の社寺景観に描き込まれるほど参詣の一風景として広く認識されていた。他方、熊野の修験者組織を取りまとめる熊野三山検校を代々担ってきた園城寺(寺門派)が「縁起絵」注文制作に関わっていた可能性が指摘されており、このような熊野圏ネットワークと時宗の密接な関りがこのような表現を生み出したと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナの影響のため、当該年度に予定していた光明寺本、永福寺本等の国内の転写本に係る現地調査が延期・中止となり、次年度へ持ち越すことになった。特に海外調査については現地の感染状況を鑑み、計画変更を検討している。高精細デジタル画像を入手するなどの代替案も検討している。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年度実施できなかった光明寺本、永福寺本、神戸市博本などの中世作例、および来迎寺本、東博模本などの未調査の近世作例の実地調査を引き続き行う予定である。実地調査が難しい場合は、積極的に高精細デジタル画像などを用いながら、網羅的な画面・内容の確認検討を進めていく。 諸本の画面分析から、画風の検討及び絵師グループの比定など、発注から制作にいたるまでの制作背景をできる限り明らかにし、中近世における時宗史および絵巻史における位置づけを試みたい。 研究成果については、口頭発表および公刊論文等で発信する予定である。
|
Causes of Carryover |
当該年度のコロナ禍の影響による調査の延期・中止のため、当初旅費として申請していた使用予定額の一部を費目変更し、研究環境の整備のための物品購入(図書や必要機材等)にあてたため、未使用の差額が生じた。 繰り越し分については、来年度の旅費あるいは物品購入費にあて、研究遂行に努める所存である。
|