2020 Fiscal Year Research-status Report
再誕生という観点から考察されたエゴの自己構成とその危機についての分析
Project/Area Number |
20K21932
|
Research Institution | Kushiro Public University of Economics |
Principal Investigator |
本間 義啓 釧路公立大学, 経済学部, 講師 (30881859)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | ミシェル・アンリ / ジャコブ・ロゴザンスキ / フロイト / 無意識 / ラカン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ミシェル・アンリとジャコブ・ロゴザンスキによる精神分析への批判を分析し、この二人の哲学者における特異な生の思想 ―― エゴの自己経験を「誕生」という観点から思考する試み ―― を考察するものである。「生」についての現代フランス思想の言説を、「生」の病を分析する精神分析の言説と突き合わせて解釈することが本研究の目的である。 本年度は、ミシェル・アンリの『精神分析の系譜』等のテクストを読解し、アンリの精神分析批判の射程を吟味した。とりわけ、以下の三点を明らかにしようと試みた。1)アンリはフロイトの無意識概念から何を理解しようとしたのか、2)精神分析の無意識概念のうち何をアンリは理解することを拒んだのか、3)この拒否、否認の背景には、いかなる「生」についての思想があったのか。また、アンリによるフロイトの批判は、どの程度、彼の思想形成に寄与するところがあったのかを調査したのであった。 研究発表『非-脱自的時間と無意識 ―― アンリにおける精神分析批判の射程』において、以下の仮説を論証しようとした。すなわち、後期アンリ思想に見られる特異な時間概念を論究するにあたって、彼の精神分析批判の読解が寄与するところが大きい、と。アンリにおいて時間概念を論じることを可能にするテクストは多くはない。しかし彼がフロイトの無意識概念を論じるテクストの中には、時間の問題への言及が散見されるのであった。こうしたテクストを読解することにより、アンリはフロイトの無意識概念を一種の時間論として読解していたということ、そして、フロイトの無意識概念は、アンリ独自の時間概念の特性を際立たせる鏡となっていることを論証しようと試みたのであった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『精神分析の系譜』等の読解により、アンリの精神分析批判の解釈を行なった。研究開始前は、以下のような仮説を立てていた。すなわち、アンリの精神分析批判は彼の思想的発展に寄与するところが大きいものである、と。この仮説を立証するために、アンリの精神分析批判が、どの程度まで、彼の誕生概念の特異性を解釈することに寄与するのかを調査した。しかし、研究を進めるにつれ、精神分析の理論はアンリ思想の発展に寄与するところが少なかったという解釈をとらざるをえなかった。それゆえ、アンリの生の概念を精神分析の観点から吟味することを、ある程度、控えざるをえなかった。 本年度の研究で明らかになったのは、精神分析の「病」の分析とともにアンリの「生」の思想を考察するためには、ある程度の自由な解釈を展開せざるをえないということである。また、アンリ研究という枠組みで、彼の精神分析批判を生産的に解釈するためには、「時間」というテーマが非常に実り豊かであることが明らかになったのであった。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、ロゴザンスキによる精神分析の批判的読解の解釈を行う。『我と肉』におけるラカン批判が、ロゴザンスキの「自我分析」の展開にいかに寄与したのか。また、エゴの自己経験についての彼の理論は、精神分析の読解から何を引き出したのかを吟味したい。また、彼の「師」であるアンリとの方法論の違いにも留意して、ロゴザンスキの精神分析読解のアプローチの特異性を明らかにしたい。 ロゴザンスキの精神分析のテクストへの言及は、彼の様々な著作で行われている。また、フロイトやラカンのみならず多くの分析家の理論を解釈が試みられている。それゆえ、統合的に解釈を行うために、ある程度限定されたテーマ設定を行う必要があると考えている。
|
Causes of Carryover |
注文したいくつかの書籍の取り寄せを行うことができなかったため。翌年度にまた取り寄せが可能なルートを探すつもりである。
|