2020 Fiscal Year Research-status Report
超絶主義とプラグマティズムの「自然主義」をめぐる考察
Project/Area Number |
20K21933
|
Research Institution | Kyoto City University of Arts |
Principal Investigator |
谷川 嘉浩 京都市立芸術大学, 美術学部/美術研究科, 講師 (60884806)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | 自然主義 / 超越主義 / プラグマティズム / 質的調査 / アメリカ社会学 / シカゴ学派 / デューイ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、自身のこれまでのジョン・デューイを中心とする研究に掉さしながら、W.V.O.クワイン以前の自然主義を調査し、とりわけ超越主義と呼ばれる立場を採用した人々の自然史や進化論受容とロマン主義的立場の整合性について明らかにすることを目指すものである。 本年度は、その予備的段階として、先行研究でも蓄積の多いクワインの自然主義に関する調査と、超越主義者から多大な影響を受けたジョン・デューイの自然主義について調査を中心として遂行した。 後者の考察は、三つの成果として発表された。まず、デューイの自然権思想に関する研究が、「民主主義へのジェファーソン的『信仰』:政治的疎外、自然権、プラグマティズム」として論文化された。さらに、デューイが死後に哲学内で影響力を低下させるのと軌を一にして、アメリカ社会学に多大な影響を及ぼしたことが判明し、この点に関する研究を進めた。デューイの自然主義は、アメリカ社会学(とりわけ質的調査)の前提条件となり、その後の展開を支えるような働きをしたのである。こうした議論は、「ジョン・デューイの自然主義とは何か、そしてそれがどのように社会科学に継承されたか:シカゴ、コロンビア、カリフォルニアの社会学と質的調査」というタイトルで論文化された。デューイが死後に急速に「忘れられた」という哲学界の評価の一面性を示唆するものだと言える。 加えて、自然主義やロマン主義に関わる周辺領域での研究も行った。新京都学派における反アカデミズム的姿勢に関する発表がその一例である。ほかに、アメリカ大統領選挙に関連したシンポジウムに登壇し、選挙戦における陰謀論やフェイクニュースの隆盛を念頭に置きながら、自然主義とロマン主義の交点において想定される妥当な想像力の用法について発表した上で、公共政策学者とともに議論した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
外的要因(環境面など)と内的要因(研究計画内の事情など)に分けて説明したい。 何よりもまず、新型コロナウィルスの流行の影響は多大なものだった。海外渡航はもちろん、国内での出張も難しく、資料収集や研究者とのディスカッションの一切が滞った。また、急なオンライン対応で教育に大幅なエフォートを割かざるを得なかったし、本年度は大会の中止・縮小などで、研究発表の機会も相対的に減った。 加えて、新しく赴任した大学の文献購入に関する慣習やルールが、以前の大学と大幅に異なっていたことも大きい。以前は最低限の手順で立替払い等の対応が可能であり、迅速に研究を進めることができたが、本学の正式な手順では、職員の親切で誠実な対応をもってしても、書籍や文献入手に相当な時間がかかる上に事務手続きも多く、制度的な問題があると感じた。以上が外的要因である。 内的要因としては、先行研究などで蓄積のあるクワイン周辺の自然主義に関わる調査に時間を取られたこと、そして、デューイ自然主義とアメリカ社会学の関係が明らかになったため、それに関する論文を執筆する必要に駆られたということが挙げられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度に十分できなかった資料収集を継続しつつ、以下のことを行っていく。 ・デューイ哲学における自然と想像力の関係について研究会で発表を行う ・アメリカ社会学における自然主義について、論文・翻訳の形で成果を発表する ・超越主義における自然主義とロマン主義の関係性について、ラルフ・ウォルドー・エマソンとジョン・ミューア、そして、ヘンリー・デイヴィッド・ソローに絞って検討を継続し、論文や研究発表等の形にまとめていく
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの流行により、出張や文献購入など、ほとんどが事前計画通りにいかない年度であり、その影響を受けたため。
|