2020 Fiscal Year Research-status Report
A Comprehensive Study of Keizan Jokin's "Denkoroku"
Project/Area Number |
20K21941
|
Research Institution | Aichi Gakuin University |
Principal Investigator |
横山 龍顯 愛知学院大学, 文学部, 講師 (50880499)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | 瑩山紹瑾 / 禅宗 / 曹洞宗 / 伝光録 / 文献学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度においては、龍泉寺(福井県越前市)に所蔵される『伝光録』(1300年)の写本調査を中心に行い、本文系統の精査を行った。 『伝光録』最古の本文系統(古本系統)には、錯簡が多く見られ、錯簡の共有具合から4系統(A群・B群・C群・D群)に分類されることが、これまでの研究によって明らかにされている。 龍泉寺本の調査を行った結果、龍泉寺本では錯簡や本文の明らかな誤字などがかなり修正されており、後代の修正が加えられていることが知られるが、その修正は必ずしも完璧なものではない。たとえば、「古本系統B群」のみに見出される「道元章」の錯簡はそのまま残されている。ほかにも、「般若多羅章」や「曹渓慧能章」には「古本系統B群」のみが有する特徴的な本文表記を確認することができる。また、錯簡などの修正に関しては、「中間本系統」(古本系統の錯簡がすべて修正された本文系統、18世紀以降)に基づいて行われたと考えられる。 以上の特徴を総合的に勘案すると、龍泉寺本の親本は「古本系統B群」に分類される一本であり、書写に当たっては、「中間本系統」の写本に依拠して修正が行われたと考えられることから、書写年代は18世紀後半以降に比定される。 龍泉寺本は、「古本系統」に属する本文を親本としつつ、修正のために「中間本系統」の写本を利用しているが、このような系統を横断して書写が行われた痕跡を示す写本は、他に例が見られず、非常に貴重な事例であると言うことができる。さらに、龍泉寺本が「古本系統」の本文を有すると明らかになったことは、「古本系統」に新たな研究材料が加わったことを意味しており、非常に大きな進展であったと言うことができる。また、龍泉寺本の書写年代からは、近世以降も古本系統が書写されており、「古本系統」と「中間本系統」が共存していたことが示唆される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は龍泉寺所蔵本だけでなく、天林寺(静岡県浜松市)所蔵本の調査も行う予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行により、断念せざるを得なかった。そのため、天林寺本調査は2021年度に行う予定である。 しかしながら、依然として感染症収束の見通しが立たないため、2021年度についても、調査が実現可能か定かではないが、天林寺本については代替措置を講じることが可能である。曹洞宗文化財調査委員会は、昭和55年3月に行った天林寺調査において、『伝光録』のモノクロ画像を撮影しており、その画像を所蔵している。また、駒澤大学図書館にも、曹洞宗文化財調査委員会撮影画像の紙焼きが所蔵されているため、現地での調査が不可能と判断された場合においても、代替措置として、曹洞宗文化財調査委員会の画像あるいは駒澤大学図書館所蔵の紙焼きをもとに、本文系統の調査を行う予定である。 ただし、曹洞宗文化財調査委員会が撮影した画像はモノクロであるため、後筆の判断などが困難となる場合が想定される。そのため、現地での高精細画像の撮影が達成されるべく、感染対策を徹底するなど、調査受け入れのために入念な準備を行う必要があることは論を待たない。 また、当初は天林寺本のみの調査予定であったが、偶然にも調査機会を得た龍泉寺本が「古本系B群」と同じ本文を有することが明らかになり、「古本系統」を研究するための研究材料に新たな1点が加わったことは、『伝光録』の本文系統理解を大きく推進させるものであった。 このように、天林寺本については、2021年度に調査を予定しており、調査が不可能となった場合においても、代替措置を講じることが可能であることと、龍泉寺本が新たに「古本系統」の本文を有する写本であることが判明したことを総合的に勘案するならば、進捗状況については「おおむね順調に進展している」と判断される。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度においては、2020年度に調査を行うことが叶わなかった天林寺本の調査が最優先の課題となる。『伝光録』写本のうち、最古層に位置する系統を「古本系統」と呼ぶが、「古本系統」にはA群~D群の4種の系統が存する。先行研究の指摘から、天林寺本は「古本系D群」に属する本文を有すると予想されるが、天林寺本は「古本系D群」に属する写本のなかで、唯一の完全な形で現存する写本である。そのため、「古本系D群」の全貌を明らかにするためには、ぜひとも天林寺本の調査が必要である。 また、2021年度は、上述した天林寺本に加えて、永平寺所蔵本と駒澤大学図書館所蔵本の調査を行う予定である。こちらについても、感染状況次第では現地調査を断念せざるをえない可能性が存する。ただ、永平寺本・駒澤大学図書館本(いずれも古本系B群と予想される)についても、天林寺本と同様に、代替措置を講ずることが可能である。 永平寺本については、マイクロフィルムが駒澤大学図書館に所蔵されているため、そちらを閲覧することで、現地調査に代えることができる。そして、駒澤大学図書館本については、「駒澤大学電子貴重書庫」において、高精細画像が公開されているため、こちらの画像を閲覧することで、本文の調査を行うことが可能である。 以上に述べてきた、天林寺本・永平寺本・駒澤大学図書館本の調査を行うことで、現在までに所蔵が確認されている「古本系統」に属する写本の調査が完了する。とくに、全貌が明らかになっていない「古本系D群」の本文を有する天林寺本と「古本系A群~C群」の本文を比較検討することで、「古本系統」の全体像が明らかになると考えられる。同時に、それぞれの相互関係から、「古本系統」の成立過程も明らかになり、従来よりも『伝光録』の原型に近づくことが可能になると考えられる。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症が流行したため、調査や研究打ち合わせを中止せざるを得ず、旅費を使用する機会がなかったことが、次年度使用額の生じた直接的な理由である。 今年度行うことのできなかった調査および研究打ち合わせについては、翌年度に行う予定である。 ただし、翌年度においても、感染症の流行状況によっては、研究打ち合わせをリモートに切り替える等の代替措置を講じる必要が生じる可能性があるため、柔軟に対応していく必要があると考えている。
|
Research Products
(7 results)