2021 Fiscal Year Research-status Report
ポストソ連とロシア人の伝統:若者たちが発掘し再生産するバラライカの演奏文化
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20K21944
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大家 かおり (柚木かおり) 立命館大学, 国際関係学部, 授業担当講師 (40775045)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 現代ロシア / ポスト社会主義の文化 / ロシア人 / バラライカ / ロシア民俗音楽 / ロシア伝統文化 / ロシアフォークロア |
Outline of Annual Research Achievements |
現地調査を基に現代のロシア人の伝統文化、こと国民的楽器バラライカの演奏文化の保存・変容・発展の諸相を、ポスト社会主義の文化の一例として記述することを目的とする本研究は、当該年度も新型肺炎Covid-19の流行により渡航ができず、予定していた調査内容に変更が生じた。 計画では、現地発信のSNSやHPでの公開情報の分析と直接対話による聞き取りと、現地での「発掘」と「再生産」の以下①~⑧の調査・観察を行うことになっていた。①バラライカ博物館と楽器製作所見学+農村調査(ウリヤーノフスク州)、② 若手の活動(①の本拠地)の継続調査(モスクワ)、③ 中堅活動家訪問+農村調査に同行+レッスン・集会等見学(リペツク州)、④ 若手訪問+レッスン・集会等見学(コストロマ州、チェリャビンスク州)、⑤ 超世代の新組織KTI訪問+レッスン・集会等見学(モスクワ)、⑥現在準備中のバラライカ博物館(モスクワ)、⑦ ⑧研究者との意見交換+若手との交流(モスクワ、ペテルブルク)、である。 今年度は方法を変更し、①~⑥は、事前にやりとりをしたうえでZoomにて代表者を中心に基礎的なインタビュー動画を共同作成し、YouTubeに本研究専用チャンネル"Balalaika & Cat"を開設し、動画を日本語字幕付きで公開した(日露両国対象)。また、日本語での解説動画も公開した(2022年5月現在、インタビュー動画8人分22本、解説動画4本)。⑦⑧はSNS上で適宜個人的に行っており、見合った成果を得ている。 学会発表は、日本では人類学者を集めてワークショップを企画し、ロシアでも1本発表を行った。前年度のロシア語の論文は査読済みでロシアで印刷中だが、戦争のため全面ストップしている。 以上、調査としては大幅な制限があったが日本でできることを最大限に活かし、日露で本研究を新しい研究対象・方法として引き続き提示することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
今年度も渡航ができず、4回予定していた現地調査がまったくできていない。調査の見込みが2021年5月時点で立たなかったため方法を変更し、前年度に行っていた聞き取りをもとに基本情報のインタビュー動画を共同作成し、YouTubeに公開し、日露両国から誰でも見られるようにした(専用チャンネル"Balalaika & Cat" https://www.youtube.com/channel/UC_Azn2R3E3TpWue4oWqi9aA)。原則、演奏が行われる現場での調査のみを渡航時に残す形にした。 ロシアでは本研究の対象者に対して誰もこのようなまとまった形での本格的なインタビューを行うことがないため、ロシア向けには「研究成果をフィールドに返す」ことが実現できている。ただし、対象者はアマチュアであり、話慣れていなかったりZoomの不調があったりして、人によっては写真挿入や音声編集・差し替えの要望があり、動画編集に相当の手間と時間がかかった。対日本は、YouTubeに日本語字幕をつけて公開することで、「バラライカ」という検索ワードでアクセスする人に現在の文化状況を知ってもらえるようにした。授業でも用い、ロシア語話者が実際に人生談を語る場面を見ることで、本や教科書やテレビでなく直接現在の普通の人たちの話に触れられるようにした。 前年度から持ち越していた各人の活動内容と理念および世代間格差について調べるという問題は、動画作成である程度は解明できたように思われるが、あくまで一方的な語りであり説明であるため、実際の音楽の演奏の場で話を聞き、掘り下げる必要性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
前項より、現時点では状況を実際に目で見て確かめていないため、最終的に学術的成果物を出せる材料が収集できるかどうか不安が残ると言わざるを得ない。疫病、戦争でこの1年で入国が許可になるかどうか先行き不透明であるが、次のような方策を考えている。 1.引き続き、日本にいてインターネットを通じて入手できる情報は、継続して収集・分析を行う。YouTubeへの動画作成は研究対象者からの勧めのあった計画外の奏者からも行う予定であり、また、掘り下げが必要な話を第2弾として同じ人に行う予定である。第2弾に関しては人によってはどこまで話が引き出せるかわからないという不安材料があるが、できる限り試みる。 2.計画では全部で4度の現地調査を考えていたが、渡航可能になればせめて1度は行いたい。 3.疫病に次ぎ、2022年5月時点で戦争が障害となっているため、Zoom等を通した聞き取り調査に切り替える。どこまで掘り下げられるかは未知数だが、この状況では試みるしかない。実際の活動の場の調査に関しては、現地の協力者に依頼し、最大限可能な調査を試みることも検討している。万一ロシアとの繋がり自体が遮断されてしまった場合は、成果物の出版に切り替えることも視野に入れている。 4.2022年2月の戦争勃発後、ロシアの学会(オンライン)からの招待が立て続いているため、できる限り参加し、本研究の成果報告の機会とする。ただし、論文集が出版される見込みが立つかどうかは定かではない。日本の学会発表は秋の2学会(日本ロシア文学会、東洋音楽学会)を予定している。
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Causes of Carryover |
新型肺炎Covid-19により、4回予定していた渡航調査ができなかったため。 2022年度は疫病も収束していない状況で、さらに戦争により渡航ができるかどうか不透明であるが、渡航が可能になれば1度でも行きたいと考えている。実際の活動の場の調査に関しては、現地の協力者に依頼し、最大限可能な調査を試みることも検討している。万一ロシアとの繋がり自体が遮断されてしまった場合は、成果物の出版に切り替えることも視野に入れている。
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