2022 Fiscal Year Research-status Report
ポストソ連とロシア人の伝統:若者たちが発掘し再生産するバラライカの演奏文化
Project/Area Number |
20K21944
|
Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
大家 かおり (柚木かおり) 立命館大学, 衣笠総合研究機構, プロジェクト研究員 (40775045)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2024-03-31
|
Keywords | 現代ロシア / ポスト社会主義の文化 / ロシア人 / バラライカ / ロシア民俗音楽 / ロシア伝統文化 / ロシアフォークロア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、現地調査を基に現代のロシア人の伝統文化、こと国民的楽器バラライカの演奏文化の保存・変容・発展の諸相を、ポスト社会主義の文化の一例として記述することである。調査対象は主に1980年代生まれの世代、それも制度上の専門教育を受けていないアマチュア層である。彼らは、社会主義の文化において国の制度に入りきれず実質的に放置されていた伝統文化の中のバラライカの演奏を、現代の都市文化の形態に移入し発展させる原動力となった。本研究からは、ソ連崩壊後20年を経て、新たな世代の手による社会主義と資本主義がうまくかみ合った、現代の伝統文化の生産的な実態を見ることができる。 計画では、現地発信のSNSやHPでの公開情報の分析と直接対話による聞き取りと、現地での「発掘」と「再生産」の調査・観察を行うことになっていたが、今年度は戦争により渡航ができず、当初予定していた調査内容に変更が生じた。現地調査の代用として前年度に引き続き、事前にやりとりをしたうえでZoomにて基礎的なインタビュー動画を共同作成し、前年度開設のYouTubeの本研究専用チャンネルに日本語字幕付きで公開した。 調査方法がこのような形をとらざるを得ないため、今年度は調査対象を広げ、当初の「アマチュア層のみ」から「専門教育を受けながらも現在のアマチュア層と共に活動し、目立った実績を残している奏者」に広げて行った。その結果、社会主義の文化の「制度から抜け落ちたもの」の存在が浮き彫りになり、アマチュア層の存在の文脈がより鮮明になるという成果を得た。SNSなどウェブ上の公開情報の分析と直接対話は適宜行っており、戦中でありながらもそれぞれの活動は続いているという結果を得た。 調査としては大幅な制限があったが、日露で本研究を新しい研究対象・方法として、またYouTubeを成果公開の方法として提示できている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
現地調査の代替として、前年度に引き続きインタビュー動画を調査対象者と共同作成し(今年度分は2023年5月現在、インタビュー動画6人分19本)、YouTubeに公開し、日露両国から誰でも見られるようにした(専用チャンネル"Balalaika & Cat" https://www.youtube.com/channel/UC_Azn2R3E3TpWue4oWqi9aA)。YouTube動画は、大学の専攻ロシア語、外国語科目ロシア語の授業および市民講座で使用し、ロシアの「普通の人たち」のロシア語、語り口、雄弁さ、話題、話の内容に反響を得た。 今年度は対象者の範囲を広げ、アマチュア層以外の制度上の既存分野から移ってきた人たちの動画作成を行い、既存分野に関してウェブ上での現地の講義、論文集を参照した。今年度は音楽専門教育を受けている人たちが対象であるため細部にこだわる人たちが多く、動画編集には前年度以上に手間と時間がかかった。 前年度から持ち越していた各人の活動内容と理念および世代間格差について調べるという問題は、動画作成である程度は解明できたように思われるが、あくまで一方的な語りであり説明であるため、実際の音楽の演奏の場で話を聞き、掘り下げる必要性がある。しかし、現状では渡航は不可能であり、今あるデータの公表と分析に注力し、本件は将来の課題として積み残す以外の選択肢はない。 学会発表は、日本では日露の民俗学者を集めてロシア文学会でワークショップを企画、東洋音楽学会で個人発表したほか、ロシアでも2本発表を行った。論文はロシア語が2本出版されたが、前年度の1本は外国文化を扱った論文集となるため、戦時下で全面ストップしている。 成果報告として、渡航で支出予定の費用を出版に充てる計画を立て、今年度までに集まったデータを取りまとめる作業を始めた。現時点で、聞き取り部分の和訳と編集が完成している。
|
Strategy for Future Research Activity |
前項より、現在集まったデータをまとめることに重点を置き、それに準じて学術的成果物および社会貢献の作業を進める。 1.成果物として、一般書としての日本語での出版を予定している。ロシア側からはロシア語での出版の要望も出ているが、現時点でロシアへの送金ができないため、状況を見て判断したい。 2.日本の学会発表は、秋の2学会(日本ロシア文学会、東洋音楽学会)を予定している。ロシアからは、招待があればオンラインあるいはビデオで参加する意向である。 3.引き続き、日本にいてインターネットを通じて入手できる情報は、継続して収集・分析を行う。上述の通り一旦調査対象の範囲を広げたので、YouTube動画作成も既存分野のバラライカ奏者やロシアの研究者を対象としていく予定である。
|
Causes of Carryover |
新型肺炎Covid-19と戦争により、4回予定していた渡航調査ができなかったため。 次年度は、成果物の出版に切り替える。
|