2021 Fiscal Year Research-status Report
カントに基づく人間の尊厳概念の現代への応用可能性の探究
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20K21946
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
平出 喜代恵 関西大学, 文学部, 准教授 (90882142)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | カント / 人間の尊厳 / 介護 / 医療 / ケア |
Outline of Annual Research Achievements |
8月に「尊厳概念をめぐって」を主題とする共同討議の提題者として口頭発表を行なった(8月17-19日、第10回大阪哲学ゼミナール、Zoom開催)。本発表では、憲法に相当する法に「人間の尊厳」という概念を盛り込むドイツにおいて、法概念としての「人間の尊厳」保障をめぐる解釈がいかに変容してき、それによってどのような問題が生じてきたかを取り出すことによって、法概念としての「人間の尊厳」が本質とすべき点を指摘した。 介護・医療従事者を対象に講演を重ね(5月22日、6月26日、7月31日、9月4日、10月28日、12月9日、1月20日、3月11日。いずれもZoom開催)、カントに基づく「人間の尊厳」という理念を介護・医療の実践の場でいかに考えるべきかについて、出席者らと意見を交換してきた。講演では、まず「人間の尊厳」の可能性を否定する「悪への性癖」に言及しつつ、カントの「人間の尊厳」が厳格な規範的理念として成立してきた経緯を略述した。そのうえで、それにもかかわらず、「人間の尊厳」という考え方から介護・医療といったケア実践の場面や、それに影響を与えている法にたいして一定の見解を示すことができ、この理念が多様な問題に応じることのできる柔軟性をもち合わせていることを指摘した。質疑応答をつうじては、介護・医療といったケア実践の場でも「人間の尊厳」は規範的理念として受け取られているものの、ケアされるひとの意思の尊重を強調するものとして理解される傾向にあることを把握した。 以上、2021年度は、アクチュアルな問題においてカントの「人間の尊厳」はいかなる見解を提示することができるかというテーマに取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度は、カントの「人間の尊厳」という考え方に立脚して実際に生じている多様な問題に取り組むことで、この概念を、規範性を堅持しつつ、同時に柔軟性に富んだ概念として鍛錬していくことを目指した。 当初の研究計画では、その試金石としての具体的な倫理学的問題を、生命倫理学の問題を学際的に取り扱うThe Hastings Center ReportやAmerican Journal of Bioethics、その医学的観点からの考察に力点をおくBioethicsなどの雑誌に見つける予定であった。しかし、講演の際に介護・医療従事者らから直接に意見交換する機会を多くもつことができたため、そのときに提出された倫理学的問題を題材とすることにした。本研究で「人間の尊厳」を活性化するために実際に採用した事例は、限定的であるという欠点がある。しかし、倫理的学的問題のみならず、それに直面した介護・医療従事者の考えや実際の対応方法などを同時に考察しうる点で、より豊かな示唆を得られたと評価している。ただし、本研究の考察内容については、他の研究者らとの意見交換をつうじた妥当性を検討するには至らなかったため、「やや遅れている」と自己評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、カントに基づく「人間の尊厳」を多様な問題に応じることのできる柔軟性を含む概念へと鍛錬していく手法として、介護・医療従事者らとの意見交換のなかで提出された「人間の尊厳」をめぐるアクチュアルな問題にカントに忠実に考察を加えた。 2022年度は、当初の計画に記したとおり、生命倫理学の文脈で理解されている「人間の尊厳」が含む問題点について、ハーバマス(特に1992, 2001, 2011)とビルンバッハー(特に1996, 2002)の対立に注目して論点整理を行ない、そこからあらためて具体的な倫理学的問題の考察を行なう。 本研究で示すことのできる「人間の尊厳」の現代的意義とその妥当性については、とりわけ「人間の脆弱性」に着目しつつ、国内外の研究者らと意見交換を行なう予定である。カント研究にかぎらず、さまざまな倫理学的立場からの意見を批判的に取り入れることによって、「人間の尊厳」という考え方を価値多元的な現代社会に生じる諸問題に応じられるものとして、さらなる奥行きをもつものへと鍛錬していく。
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Causes of Carryover |
国内外の研究者らとの意見交換のための費用として計上していたが、社会情勢のために実現できなかったため次年度に使用することにした。次年度、社会情勢が許せば、当初の計画どおり意見交換のための費用に充てる。
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Research Products
(1 results)