2020 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Relation between Ancient Greek Geometrical Analysis and Plato's Philosophical Methods
Project/Area Number |
20K21948
|
Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
岩田 直也 福岡大学, 人文学部, 講師 (00880858)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
|
Keywords | 分析 / プラトン / 仮設法 / 総合と分割法 / アリストテレス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、プラトンの後期対話篇に登場する「総合と分割法」が「発見」と「確証」という一対の過程として理解できることを、『ソフィスト』『ポリティコス』『ピレボス』それぞれの詳細な検討を通じてより具体的に示すことにある。そしてこの研究は、西洋古代における「分析」概念の展開について新たな視点を提供するというより大きな目的の一部である。 初年度は、上記の目的を達成する上でもっとも重要となる『ソフィスト』についての検討・執筆を進めた。ここでの成果はまず、「分割」の過程がこれまでの研究で前提とされてきた「検討対象(ここでは「ソフィスト」)の定義を発見する」過程ではなく、「あらかじめ特定した定義を対話相手に示す」過程であることを論証したことである。さらにまた、『ソフィスト』には「分割」と比較して「総合」の過程が明示されてはいないが、ソフィストの最終定義を巡る「分割」の直前に交わされている問答の中に「総合」と対応しうる定義特定の過程が含まれていることを論じた。 また、「総合と分割法」はある対象についての一般的な定義を獲得するために、その対象の個別的な事例の情報を用いることが前提とされているが、これが『メノン』における「探求のパラドクス」と抵触するという重要かつ基本的な問題を認識し、当初の計画にはなかったがこちらの研究も進めた。その考察結果は、「想起説」の導入によって個別的な事例の正しい信念から定義探求が可能とされている、というものである。そこでさらに、では何故「想起説」が個別的な事例の正しい信念を保証するのかという問題を、『メノン』と『パイドン』に依拠してより具体的に論じた。この研究の原案は、2020年12月に行われた「西日本哲学会第71回大会」において発表した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「総合と分割法」が「発見」と「確証」の一対の過程に対応していることを『ソフィスト』において示すことは、残る二つの対話篇と比較してより困難である。というのも、そこでは一見して「分割」の過程が定義発見の中心的役割を担っているように思われ、実際に先行研究でもそのように想定されてきたからである。また、この対話篇について「総合」の過程の役割についてまとまった仕方で論じられることはこれまでほぼなかった。したがって、この対話篇についての考察と執筆が進んだことは、研究全体の進度としても順調だと考えられる。 さらにまた、「総合と分割法」がどのように個別的な事例の情報を用いることができるのかという問題に関して、『メノン』における「探求のパラドクス」と「想起説」の関係の考察と論文執筆も、学会発表でのフィードバックも踏まえながら、かなりの程度進めることができた。この問題は「総合と分割法」の文脈でこれまで具体的に論じられたことがほとんどなく、当初の予定からは若干外れるものであるが、本研究成果の内容をより深いものにするため重要な貢献となると考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、研究計画に記した通り、『ポリティコス』と『ピレボス』それぞれの対話篇において「総合と分割法」が確かに「発見」と「確証」の一対の過程と連関していることを検討・論証する作業に移る予定である。その上で、アリストテレスによる「分割法」に関する議論も検討し議論に組み込んでいきたい(『分析論前書』第1巻第31章、『分析論後書』第2巻第5、13章)。そこでアリストテレスは、「分割法」によってあるものの定義が正しいことを証明することができない、と述べており、これは先のプラトンに関する私の仮説を強くサポートするものになると考えられる。 そしてその上で、以前に私が行ったプラトンの中期対話篇に登場する「仮設法」の研究との比較検討を行う。そこでの主要な結果は、プラトンが仮設を立てる過程とその仮設を確かめる過程を明確に区別し、その仮設に関する一対の「発見」と「確証」の過程が古代ギリシア数学の「分析法」に由来する、というものである。現在の研究が正しければ、「総合と分割法」における対象の定義を「発見」及び「確証」する過程は、「仮設法」における仮設の「発見」及び「確証」する過程に対応することになる。これにより、プラトンの主要な二つの哲学方法が、当時のギリシア数学の「分析法」に起源をもち、そこからどのように変遷しアリストテレスに受け継がれたのか、という西洋哲学史における「分析」概念の最初期の展開を明らかにすることまでを目指して研究を進める予定である。
|
Causes of Carryover |
初年度は新型コロナウイルスの影響により、学会活動に全く参加することができず、旅費の使用がなかった。今年度は、できるだけ積極的に学会活動に取り組む予定であるが、感染状況によりどれくらい使用することになるのかはまだ不明である。 なお、初年度よりすでに論文の執筆は行っているが、まだ原稿の完成には至っておらず、初年度に英文校正費の利用はなかった。今年度は初年度に執筆した論文も含めて英文校正費を利用する予定である。
|
Research Products
(3 results)