2021 Fiscal Year Research-status Report
A Study on the Relation between Ancient Greek Geometrical Analysis and Plato's Philosophical Methods
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20K21948
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Research Institution | Fukuoka University |
Principal Investigator |
岩田 直也 福岡大学, 人文学部, 講師 (00880858)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | プラトン / アリストテレス / 分析 / 分割 / 『ソフィスト』 / 『ポリティコス』 / 『ピレボス』 / 『分析論』 |
Outline of Annual Research Achievements |
第二年度にあたる本研究の実績としては、まずプラトン『ソフィスト』の分割法に関する論考が、2022年7月に米国ジョージア大学にて開催予定の「国際プラトン学会第13回国際会議」での口頭発表に採択されたことが挙げられる。本論考は、『ソフィスト』における分割法が「ソフィスト」などの検討対象の定義を発見することではなく、既に特定されている検討対象の定義が適切であることを対話相手に説得的に論証することであるという見解を、昨年度までの研究をベースに対話篇導入部のテキスト的根拠をより綿密に検討したうえで提示するものである。本研究の成果は、『ソフィスト』以外の対話篇における「分割法」の役割を再検討する上で重要であり、また、「分割法」と対になる「総合法」が検討対象の定義を発見する上で実質的な役割をもつという、これまでの研究が想定してこなかった新たな方法論的見解を提示する意義をもっている。 第二に、アリストテレスの「分割法」を検討する上でより基礎的な考察となる、彼の「分析」概念の網羅的な検討を行ったことである。「分析」概念一般には、「分割法」と密接な関わりをもつ「分解的」概念に加え、より基本的な原理の発見へと遡る「逆行的」概念、それぞれの具体的な推論をその論理的骨格に還元する「解釈的」概念の三つがあると考えられている。アリストテレスによる「分析」概念は上記三つの用法全てに渡るものであるが、本研究はそれらが「逆行的」概念を基礎としつつ互いに密接な関連をもつものであることを実際の用例に即しながら具体的に示した。この研究成果は、アリストテレスの「分割」概念がプラトンの「分割法」から根本的に変化した可能性を示し、アリストテレスによる「分割法」の議論を検討する上で新たな視点を提供するものでもある。この成果は2022年6月に開催予定の「西洋古典学会第72回大会」にて口頭発表に採択されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第二年度には、当初、『ポリティコス』と『ピレボス』における「総合と分割法」が『ソフィスト』における同方法論と同一のものであることをそれぞれの文脈に即して示すことを目的としていたが、上記国際学会における発表を見据えて『ソフィスト』に関する論考をさらに精査する必要が出てきたため、原稿の執筆にはやや遅れが出ている。しかしながら、両対話篇の自体の検討と先行研究の批判的検討については順調に進め、本研究の終了期間までにはかなりの程度の完成を見込めている状況である。 さらにまた、アリストテレスによる「分割法」に関する議論の検討についても、上記で行ったより広範な「分析」概念の検討を踏まえることで、新たな解釈の方針とそれに伴う先行研究の扱いなどについて大方の見通しを立てることができている。こちらもまた「分割法」自体に関する執筆は最終年度に持ち越されることになるが、その下準備は十分整っていると言ってよい。 なお、本研究の最終的な目的は、以上のプラトンによる「総合と分割法」における「発見」と「確証」の一対の方法論的過程が、彼の「仮設法」における仮設の「発見」及び「確証」の過程に対応することを示し、さらにそれらが古代ギリシア数学の「分析法」に由来することを論証することである。この目的に対しては、「総合と分割法」の考察・執筆を進めると同時に、「仮設法」との関係の細部の見直し及び原稿の修正も行っており、計画の進捗状況は順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の最終年度にあたる今年では、まず発表を予定している「西洋古典学会第72回大会」と「国際プラトン学会第13回国際会議」に向けて、発表内容及び原稿の改善に努め、発表後では質疑応答を踏まえて内容の再検討を行い、原稿の完成に努める予定である。 次に、それ以外の大部分の時間は、残された上記の課題に関する執筆を可能な限り進める予定である。まず、プラトン『ポリティコス』及び『ピレボス』における「総合と分割法」に関する論考を完成させることを第一の目標とする。それと同時に、アリストテレスによるプラトンの「分割法」批判に関する論考の執筆も可能な限り進める。これらの完成をもって、本研究の目的となるプラトンを中心とした「分析」概念の最初期の展開を明らかにする研究書の大方の原稿が揃うことになる。その段階に至って、イントロダクションの執筆、文献表や目次、索引の作成など、書籍出版に向けての最終的な作業を行うとともに、出版社との出版契約を結ぶための応募資料作成なども行う予定である。 さらにまた、昨年度には本研究の内容とは直接的には関係がないが、それをより深い視点から捉えなおすためのプラトンの「想起説」に関する研究を行っている。二つの対話篇『メノン』と『パイドン』それぞれにおける「想起説」に関する原稿は、学会発表による質疑応答も踏まえながら引き続き改良を施している状況であるが、未だ雑誌論文として査読を通過する段階にまで至っていない。そこで、可能な限りの更なる改善を加え、引き続き雑誌に投稿することで、今年度内での掲載決定結果が取得できるよう取り組む予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナによるパンデミックにより、学会活動が制限され現地に赴きそこでの研究者と直接交流する機会を全く持つことができなかった。特に海外における学会に全く参加できなかったことが次年度使用額が生じた主な理由である。しかしながら、現在学会活動に関する制限が緩和されてきており、新年度では国内だけでなく海外の学会にも参加が可能な状況となっている。そこで、現在までに参加が決定している学会に加え、現在の研究内容をブラッシュアップできるような更なる発表と議論の機会を得ることができるよう、主に旅費として研究費の残額を使用していく予定である。
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