2020 Fiscal Year Research-status Report
哲学的概念としての「意識」の誕生の場を特定する――デカルトかマルブランシュか
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20K21950
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Research Institution | Ibaraki National College of Technology |
Principal Investigator |
田村 歩 茨城工業高等専門学校, 国際創造工学科, 助教 (50880150)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | デカルト / 意識 / 経験 / マルブランシュ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、17世紀の哲学者デカルトを主軸に、西洋近世において哲学的な概念としての「意識(conscientia; conscience)」がいかにして創出されたのかを究明することを目的としている。 2020年度は、研究計画に従い、デカルトによる<conscientia〉という術語の使用はそれ以前の伝統的な用法から逸脱するものではないということを確認した――たしかにデカルトの〈conscientia〉は、当時標準的であった「良心」という意味では理解しえない。しかし先行研究が指摘しているように、〈conscientia〉の語源は「共に知る」という意味のギリシャ語(シュネイデーシス)であるし、また〈conscius〉は名詞になると「目撃者」を意味する。事実デカルトは<conscientia>を「内的証言」と言い換えている。さらに、既存の術語を自らに固有の意味で使用する際には丁寧な定義を行うデカルトが、<conscientia>については定義を行わずに使用しているのである。これらの点を踏まえ本研究は、デカルトにおける<conscientia>とは、自らの精神のうちに生起している事態を目撃する、ないしそれについて証言するということであるという解釈を行い、そしてその点で、魂の変容を感じ取るものである「内的“感覚”」としてのマルブランシュの<conscience>とは異なるという見立てを得た。他方で、デカルトにおける「経験(experientia)」のうちに、マルブランシュの<conscience>と似通った側面がある可能性を見出した。すなわち、マルブランシュの<conscience>は魂の変容を感じ取るものであるが、デカルトの<experientia>には、精神が思考したり意志を使用したりする際に、それら非身体的な行為を自らがまさに行っていることを感じ取るという機能が見出されるのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルスの流布、およびそれにともなって生じた業務(遠隔授業、学生指導、各種コロナ対策会議、等)によって、研究活動が制限され、また研究時間が削減されたため。具体的には、研究打ち合わせおよび資料収集のための海外渡航が不可能となったこと、緊急事態宣言によって他の研究者との打ち合わせができなくなったこと、全国の大学附属図書館が軒並み学外者への利用を制限したこと、等が挙げられる。このような状況によって、研究はたしかに前進しているものの、成果を論文としてまとめるための細部の作業が遅延している。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画に従い、デカルトにおける〈conscientia(意識)〉と〈experientia(経験)〉との関係性について分析していく。なぜなら、本年度の研究によって、デカルトにおいて〔哲学的な意味での〕意識の機能を担っているのは〈conscientia〉よりもむしろ〈experientia〉であるという見通しが得られたからである。具体的には、デカルトが接触した、あるいはその可能性の高い諸文献を検討し、〈conscientia〉および〈experientia〉という術語について、デカルトとの共通点ないし相違点を整理していく。 また、研究成果を広く発信していくために国際ジャーナルへの投稿を予定している。
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Causes of Carryover |
予定していた学会・研究会が中止ないし延期ないし遠隔開催となり、旅費が余剰となったため。翌年度に同目的で使用する予定である。
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