2020 Fiscal Year Annual Research Report
日本における非配偶者間人工授精の実施状況に関する歴史研究
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20K21952
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Research Institution | The Health Care Science Institute |
Principal Investigator |
由井 秀樹 公益財団法人医療科学研究所, 研究員育成委員会, 研究員 (40734984)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2021-03-31
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Keywords | 非配偶者間人工授精 / フォローアップ調査 / 提供者保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本における非配偶者間人工授精の実施状況について歴史的に検討した。非配偶者間人工授精は、1948年に慶應義塾大学病院においてはじめられたことはよく知られているが、今日に至るまで、少なくとも60施設以上が実施経験があったことが本研究により明らかになった。 この処置は提供精子を使うため、賛否が分かれるものであった。それ故、医師たちはこの処置を擁護しなければならなかった。そのためにとられた方法の一つが子へのフォローアップ調査であり、本研究ではフォローアップ調査の分析にも取り組んだ。調査は1960年代と70年代に実施され、技術の安全性を確かめる目的で子の健康状態も調べられていたが、その延長線上で、子どもの知能指数の高さが示され、「優秀な」子どもを生み出す方法として語られた。しかし、安全性の追求は医学研究としては合理的ではあるが、生殖補助技術の文脈に即すれば、障害児の出生防止という発想に直結してしまう。1980年代以降、優生学的な発想が否定的に捉えられていき、1990年代以降、技術の安全性の追求が続く一方で、子の「優秀さ」は次第に語られなくなっていった。言い換えれば、積極的優生学的な発想が生殖補助技術と切り離される一方、消極的優生学的な発想は依然として結びついていることが示された。 加えて、本研究では、誰がどのように提供者役割を担っていたのか検討した。医学生が提供者役割の中心を担ってきたこと自体はよく知られているが、本研究では医学生たちが積極的に提供を担ってきたわけではなかったこと、それ故に、過去においても医療施設が提供者の確保に苦労していたことなどが示された。したがって、提供者保護という観点からすれば、少なくとも力関係がなく自由意思に基づく提供が可能な男性を提供者とすべきことが示唆される。 本研究の成果は、2021年11月の日本医学哲学倫理学会のシンポジウムでも報告予定である。
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