2020 Fiscal Year Research-status Report
トニ・モリスンの9/11以降の運動と対テロ戦争下のフェミニズム
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20K21962
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Research Institution | University of Niigata Prefecture |
Principal Investigator |
五十嵐 舞 新潟県立大学, 国際地域学部, 講師 (70881978)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 黒人女性文学 / アメリカ文学 / Toni Morrison / フェミニズム / 対テロ戦争 / ジェンダー / 性暴力 / ジュディス・バトラー |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、主に資料の収集整理と論文執筆を行った。 資料の収集と整理については、主にアメリカ同時多発テロ事件(9/11)後の米国の中東侵攻に賛同した一部の欧米のフェミニストに対する批判に関する文献を収集し読解を進めた。また、新型コロナウイルスの関係でアメリカでの調査が行えなかったため、モリスンについても書籍やオンライン上でアクセス可能な資料の読解を進めた。 論文執筆は、トニ・モリスン『ホーム』(2012)に描かれる1950年代の性暴力の表象について、9/11後の対テロ戦争に対する欧米のフェミニズムの加担の問題との関係性を検討した論文を執筆した。『ホーム』に描かれる、朝鮮戦争下での現地の少女に対する性暴力や、タスキギー梅毒実験を彷彿させる黒人の生殖器を用いた人体実験などの1950年代に関する描写は、9/11後の米兵の中東における現地市民に対する性暴力や、アブグレイブ刑務所における捕虜虐待を想起させるものであり、『ホーム』は、9/11後にそのような暴力に加担してしまう一部の欧米のフェミニストを批判し、中東の女性たちと連帯するようなフェミニズムの在り方の土壌を黒人女性によるフェミニズムの伝統の中に見出せる可能性を提示していることを論じた。黒人研究学会学会誌『黒人研究』に投稿し、査読が通り、「性暴力を認識した後に――トニ・モリスン『ホーム』における性暴力の加害と9/11後のフェミニズム」というタイトルで、2021年3月に刊行された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は、新型コロナウイルスの影響で計画していたアメリカでの調査が行えなかったが、書籍やオンライン上でアクセス可能な資料を中心に行った資料収集と整理の進展状況から、当初は令和3年度に予定していた『ホーム』に描かれる性暴力の表象分析を前倒しで行った。その成果である「性暴力を認識した後に――トニ・モリスン『ホーム』における性暴力の加害と9/11後のフェミニズム」を黒人研究学会学会誌『黒人研究』に掲載できた。現地調査が行えず、当初予定していたものと計画は前後したが、当初令和3年度に刊行を目指していた論文を刊行できたことから、概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
計画と前後した当初令和2年度に進める予定だった研究を中心に遂行していく。令和2年度の資料整理の過程で再確認した9/11後の「性暴力」の問題系を明らかにしながら作品分析を行う。新型コロナウイルスの影響で令和2年度に実施できなかったアメリカでの調査を、令和3年度に予定していた調査と併せて行いたいと考えているが、引き続き難しい場合は、オンライン上でアクセス可能なものや書籍を用いて研究を進める。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスの影響で、アメリカでの現地調査が実施できず、旅費の支出を行えなかったため、次年度使用額が生じた。次年度に、新型コロナウイルスが落ち着き現地調査の実施が可能であれば、実施したい。令和3年度にも難しい場合は、資料の複写取り寄せや、代替の研究手段となるオンラインジャーナルや書籍の購入などに用いたい。
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Research Products
(1 results)