2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K21964
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Research Institution | Wayo Women's University |
Principal Investigator |
坪野 圭介 和洋女子大学, 国際学部, 助教 (80884246)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 摩天楼 / 初期映画 / アメリカ文学 / 万国博覧会 / 遊園地 |
Outline of Annual Research Achievements |
摩天楼の表象を対象とする本研究は、摩天楼の①勃興期(1880年から1930年)、②安定期(1930年から1980年)、③衰退期(1980年から現在)という3つの時代区分に従って研究を進める計画であるが、昨年度は主に①の時期の都市表象について研究を進めた。 具体的には、まず19世紀末の都市の発展とメディア環境の変化の関係性に焦点を合わせ、しばしば摩天楼などの都市風景を題材とした初期映画が、都市のイメージを都市のなかで再生産していく循環過程を分析した。とりわけ、サンフランシスコを舞台としたフランク・ノリスの長編小説『マクティーグ』(1899)を中心的に検証し、映画の機構を小説に応用するメタフィクションを通じて、都市生活のモダニティの諸相がいかに巧みに表象されているかをあきらかにした。 次に、1920年代のニューヨークを舞台とするスコット・フィッツジェラルド『グレートギャツビー』を主に扱いながら、摩天楼都市が万国博覧会や遊園地のイメージとたえず重ね合わされていた様子を検証した。1893年のシカゴ万博でテクノロジーと進歩主義の結節点として国内外にアピールされた高層建築のイメージは、第一次世界大戦後のアメリカにおいては、過去のユートピアとして回顧の眼差しを注がれることになる。 以上の研究成果は論文のかたちで発表した。これらの研究実績の意義は第一に、摩天楼を表象してきた視覚装置や、摩天楼と重なり合う文化施設のイメージなどを含めた、複層的な摩天楼像を整理しつつ提示した点にある。第二に、摩天楼を描く小説に着目することで、人種や階級などの要素がつねに建築と絡み合いながら主題化してきたことを深く分析した点にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画から大幅に遅れることなく研究を進めることができた。ただし、新型コロナウイルスの流行状況によって、アメリカでの現地調査がおこなえなかったため、予定していた一部の研究は実施できなかった。同じく、国内学会・国際学会の中止などによって、学会発表のかたちでの成果報告もおこなえなかった。以上のような予期せぬ事態に直面したものの、2本の論文によって研究成果そのものは発表できたため、研究はおおむね順調に進展したと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず当初の予定どおり、1930年から現在までの摩天楼表象について、作品の分析や歴史的・文化的な状況の検証を進める。研究最終年度であることを踏まえ、高層ビルがどのような社会的背景を背負い、人種・階級・ジェンダーなどのしばしば矛盾する立場の葛藤をいかに建築内部に抱え、時代とともにいかなる変化を遂げてきたかを明らかにすることを目指す。また、新型コロナウイルスの流行状況によって実施できなかったアメリカでの現地調査や、国際学会での成果報告を可能であればおこないたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行状況により、当初予定していたアメリカでの現地調査および学会発表をおこなえなかったため、次年度使用額が生じた。これらの使用額は、次年度にあらためて現地調査・学会発表をおこなう際に使用する計画である。
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Research Products
(2 results)