2020 Fiscal Year Research-status Report
清輔古典学の総体解明 ー清輔本・勘物・歌学書が共進化する3Dモデルの提唱ー
Project/Area Number |
20K21965
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Research Institution | Jissen Women's University |
Principal Investigator |
舟見 一哉 実践女子大学, 文学部, 准教授 (80549808)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 藤原清輔 / 金葉和歌集 / 清輔本 / 藤原知家 / 古今和歌集 / 寿暁 / 顕註密勘 |
Outline of Annual Research Achievements |
①清輔本金葉集の研究:清輔本金葉集であると従来から考えられてきた伝本の奥書を再考した。その結果、承安五年の清輔奥書と考えられる記述をもつ写本(私案B類)の本文と勘物をまず精査し、次いで、建長元年の奥書をもつ写本(私案A類)と比較、最後に、奥書はないが勘物はある伝本と比較することで、清輔本金葉集は再建できると推定した。本論は、清輔本金葉集を分析する順番と方法を具体的に示した点に意義がある。また、私案B類の奥書については、「以大進殿本校畢、朱筆彼本勘物也」(清輔本を使って校合した。朱筆がその清輔本にあった勘物である)という一文の存在が従来から注目されており、どの勘物が、ここにいう朱筆の勘物か考察されてきた。しかし、問題の一文は、前後の文章よりも低い位置に書かれ、他よりも小さい文字で書かれている写本が多数あるため、左側にある「俊頼の歌については散木奇歌集を使って校合した」に対する注記と解釈できる。すなわち、清輔本金葉集による校合を意味する一文ではないと判断した。あわせて、私案B類の奥書全体は藤原季経の書いた奥書と考えられてきたが、問題の一文の前で奥書を区切って読めば、前半は清輔の奥書、後半は季経の奥書と解釈できる。したがって、これまでのように、朱筆で書かれた勘物を探す必要はなく、また、季経の行為と考えられてきた前半部に書かれている校合作業は、清輔の行為であると考えてよいことになる。以上の私案は、清輔本金葉集の再建方法を根底から考え直すものである。 ②伝寿暁筆古今集切の研究:計画段階では含めていなかったが、清輔本古今集に関わる当該断簡が所属機関に所蔵されていると判明したため、紹介・考察した。あわせて、同筆の『顕註密勘』断簡を紹介し、寿暁が清輔本古今集を含めてひろく古今集に関する言説を摂取した人物であると推定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
初年度は金葉集および伊勢物語の研究を終了させる予定であったが、COVID-19の影響を受け、各地に分散する写本の実地調査が叶わず、進捗状況は遅れている。旅費として試算した研究経費も全く使えていない。 ①清輔本金葉集の研究:研究計画の段階では、勘物の分析を終わらせる予定であったが、分析の前提となる伝本調査が終了できていない。そのため、分析に際してどのように考えればよいかという研究の方針を示すことしかできなかった。公開されている資料についてはデータ入力を進めているが、全体の分析は次年度に見送る他ない状況にある。 ②清輔本伊勢物語の研究:研究計画の段階では、初年度に行う予定であったが、上記①の遅延に伴い、こちらも分析を終えていない。海外にある古筆手鑑所収断簡については、協力者の助力を得て収集が進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
実地調査を前提とする、写本の網羅的調査に基づく研究を目指しているが、各地へ赴くことができない状況は、令和三年度も変わらない可能性が高い。公開されている画像データといった二次資料を用いる代替措置を考えなければならない。 まず、①清輔本金葉集の研究については、画像データ等に基づいて、勘物の分析を終わらせ、清輔古典学内での定位を行うことにする。次に②清輔本伊勢物語の研究については、利用する資料を、現在集められている資料に限定し、分析を終了させる。また令和三年度に予定していた③清輔本大和物語の研究は、現存資料の網羅的調査はひとまず保留とし、勘物の分析と清輔古典学内での定位を先に行うこととする。そして④清輔古典学の総体解明は、全ての成果を踏まえねば明らかにできない事柄であるため、補助事業期間の延長も考えたい。
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Causes of Carryover |
COVID-19の影響により、予定していた旅費の全額、人件費の全額が使用できなかった。また、その他とした文献複写費も、所蔵機関がCOVID-19の影響により閉館ないし複写受け入れの縮小を行っていたため、使用できなかったことから、次年度使用額が生じた。そこで次年度では、写本を実地調査するための旅費に充てる予定であった額の一部を、写本のマイクロフィルムや紙焼き写真の複写費に充て、複写物を用いても分かる事柄の分析を先に進めていく予定である。
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