2020 Fiscal Year Research-status Report
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20K21974
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Research Institution | Kansai University |
Principal Investigator |
小田 芳寿 関西大学, 東西学術研究所, 非常勤研究員 (10883829)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 和泉国管下の和泉監 / 中央官職による地方の掌握 / 和泉国と和泉監の相違 / 令制に対応していない国 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者の研究目的は、文学、日本史学、考古学等、あらゆる方法を取り入れた複合的観点を持ち、畿内の行政区画外の「国」のありようを考えることにある。ここでいう行政区画外の「国」とは令制に対応しない「国」を指す。畿内の行政区画外の「国」については、やまと歌としての行政区画外の「国」の考察の視座と、漢文としての行政区画外の「国」の考察の視座といった二つの視座が必要である。 本年度では、漢文としての行政区画外の「国」の考察に重点を置いた。これに該当するのは、「和泉国」(出典・『続日本紀』神亀元年〈七二四年〉十月二十一日条、『平城宮木簡』6-10520)、「難波国」(出典・『正倉院文書』写成唯論掌中枢要校正注文『正倉院文書』(「続々修35ノ3断簡2(3)裏」、『大日本古文書編年文書』、天平十六年三月七日二十日、二四巻二五九頁)、「芳野国」(出典・『律書残篇』)である。まず、「和泉国」については、「和泉」の土地空間が、「監」であるにもかかわらず「国」と記されることが何に起因するかを明らかにした。これには、養老六年(七二二)年三月に阿倍広庭が、「知河内和泉事」(河内和泉の事を知らしむ)に任ぜられることが大きく関わることがわかった。最終的には、「和泉」の土地空間は、広庭が「知河内和泉事」であった時期(神亀六年~天平四年)に、「和泉国」管下の「和泉監」という体制であり、「国」に準ずる位置づけであったことを論証した。この成果は、「行政区画外の「和泉国」の性質―『和泉監』と『芳野監』を手がかりに―」と題して、関西大学東西学術研究所第十二回研究例会、二〇二一年三月三日、オンライン開催にて研究発表を行った。なお、活字化をすすめている。さらに、上記の「難波国」と「芳野国」のありようについては、今年度、7月と10月に研究発表を行うことが決まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
やや遅れている原因は二つある。一つは漢文としての行政区画外の「和泉国」の考察に時間がかかったことである。考察史料が『続日本紀』や木簡といったこれまで、研究材料の主としてこなかった史料へのアプローチに時間がかかった。しかし、時間はかかったものの、「和泉国」の考察を行う中で、漢文としての「芳野国」の性質の見通しもついたことが大きい。すなわち、「芳野」の土地空間も「和泉」と同じく「監」が管理を行っていた。「和泉」が離宮経営から「国」の経営へと変革を見せた一方で、「芳野」は、離宮経営が主体であり、「監」から「国」へとかわることはなかったといえる。すると、研究実績の概要でもふれた『律書残篇』に見える「芳野国」とは何かということになるが、これは、誤った概念であると今の所、考えている。 そして、研究がやや遅れている二つ目の原因が、漢文としての行政区画外の「難波国」にある。この考察では、主に『正倉院文書』を取り扱っている。『正倉院文書』の研究は、直接その史料に当たる必要があるが、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言の発令など、外出に規制がかかり、原本を見に行く機会がなかった。現在では、東京大学史料編纂所データベース、正倉院文書マルチ支援データベース、宮内庁ホームページにアクセスして補っている。そして、『正倉院文書』の文字列や表現を追うことで、『正倉院文書』に見える「難波国」は、人名を記す過程で、記載されたものであり、上述の「和泉国」のような行政的な観念で把握するものではなく、『律書残篇』の「芳野国」と同様の概念として捉えるべきであろうという見通しがたっている。 そのように考えると、残る研究は、歌われる行政区画外の「国」になるが、これは、これまで、万葉集研究を行ってきた蓄積があるため、順調にすすめられると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
申請者の研究は、引き続き、文学、日本史学、考古学等、あらゆる方法を取り入れた複合的観点を持ち、すすめていく。そのために積極的に学会発表を行い、学術論文として活字化していく。 特に、これまで進めてきた漢文としての行政区画外の「国」に関する、「和泉国」や「難波国」の考察は、これまで、日本文献史学の視座が主に求められたものである。申請者の研究分野は日本文学であり、他文野の方法論を積極的に取り入れ、その結果が論文として反映されることは、今後の研究をすすめていくうえで重要である。 今後の研究の推進方法としては、上述の漢文としての行政区画外の「国」の考察が終わり次第、歌われる行政区画外の「国」に移る。その中でも特に、宮と深く関りあうことが考えられる「難波国」と「吉野国」の考察を重点的に行う。研究実績の概要でもふれた「和泉国」は離宮経営からはじまった。すなわち、「宮」との関連が強い。歌われる行政区画外の「難波国」と「吉野国」を考察を行い、「宮」への視座を多角的に捉えたいと考えている。 さらに、上記現在までの進捗状況でもふれたように、正倉院文書の調査に行くことは必須であり、現状が落ち着き次第、調査を行う予定である。
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Causes of Carryover |
当初購入を予定した書籍や電子機器、その他があげられ、現在も必要であるが、今般、発生している新型コロナウイルスにより、外出自粛や規制に伴い未だ購入できていない。また、出張調査等も行えていないのが現状である。 状況を鑑みて、使用したいと考えている。 特に、電子機器類は、調査した結果やデータ等をまとめるうえで必要不可欠であるため、購入をするつもりである。 また、出張調査としては、正倉院文書関連に使用することを考えている。現在は、東京大学史料編纂所データベース、正倉院文書マルチ支援データベース、宮内庁ホームページでまかなっているが、調査は必要だと考えている。
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