2020 Fiscal Year Research-status Report
『うつほ物語』前田本系統の本文成立史に関する基礎的研究
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20K21976
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Research Institution | Tenri University |
Principal Investigator |
高橋 諒 天理大学, 図書館, 司書研究員 (50880233)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 『うつほ物語』 / 前田本系統 / 伝本 / 本文 |
Outline of Annual Research Achievements |
平安中期に成る『うつほ物語』は、主人公仲忠を中心とする秘琴伝授の音楽物語を大枠として、あて宮求婚譚、立太子争いの物語を織り込む現存最古の長編物語である。物語の筋立て、作中人物の心理描写、行事、遊宴の細叙や和歌の群作などにおいて、『源氏物語』や『源氏物語』以後の作品の成立に大きな影響を与えた作品である。 近世期にも古典復興の気運に支えられ作品が再発見され、その広範な享受があったものの、中世期には享受の途絶えた時期があった。そのため、『うつほ物語』の伝本は中世末期を遡る古写本が存在せず、本文には諸本共通して錯簡・誤脱が少なくなく、文意不通の箇所を多く擁する。諸本については、片寄正義・笹淵友一両氏の調査・研究によってその所在や大略を把握できるが、なお足らない点は多い。各伝本について改めて調査を行い、最新の知見を反映する必要がある。また、本文系統の性格や書承関係に関する検討がいまだ不十分である。これは全巻の校本が未整備である点が一因である。 このような状況において、本研究課題の主な目的は、『うつほ物語』諸本のうち、現在最有力伝本とされる前田育徳会尊経閣文庫蔵本(以下、前田本と略称)と同系統本について、現地に赴いての書誌調査を行い、中近世にかけての日記等を含む記録類や蔵書目録を活用して来歴を明らかにし、同系統本との校合によって、その書承関係を解明することである。 今年度は本研究課題の初年度にあたり、すでに同系統系統本や来歴を伝える関係諸資料を博捜し、悉皆調査および紙焼写真の収集を行った。また、同系統諸本の本文を対照できるよう、各伝本の翻刻やデータ作成を行った。同系統諸本の調査はおおむね終えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
おおむね当初予定通りの進捗であったものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響に伴い、いくつかの調査を中止・延期せざるを得なかった。代わりに伝本の紙焼写真の収集・分析に努めた。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、現在確認されている前田本系統の伝本については調査をおおむね終えたため、今後は本文比較による分析を中心に進めていく。また、『うつほ物語』の前田本系統の来歴についても明らかにすべく、『うつほ物語』関連資料の博捜・収集・分析も継続する。 2020年度以降、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、資料調査の予定が見通せない状況にある。資料調査が可能となった際に動き出せるよう、既に収集した資料の詳細な分析を進めつつ、関連資料の精査に努めたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、予定していた調査や学会参加が取りやめになったために、旅費支出が中心である本課題においては、次年度使用額が生じた。事態の収束次第、調査を実行できるように事前準備に専念する。
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