2020 Fiscal Year Research-status Report
ハーレム・ルネサンス期の黒人作家の作品における即興文化と即興性への理念的関心
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20K21989
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Research Institution | Hakuoh University |
Principal Investigator |
萩埜 亮 白鴎大学, 教育学部, 講師 (60887925)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 批評的即興研究 / アメリカ黒人文学 / Claude McKay / Banjo / Michel de Certeau / Theodore Adorno / ジャズ |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は主として、次の3点において大きく研究を進展させることができた。 (1)Michel de Certeau の「日常」(everyday)研究を、批評的即興研究が着目する即興の政治的機能を論じたものとして読み直した。資本主義の内部から支配的イデオロギーを脱構築し、新たな可能性を産出する営為としての「消費」を、Certeauが即興的なものとして理論化している点に着目し、Stephen GreenblatやTzvetan Todorovらによる帝国主義的な即興の論理に関する先駆的な分析を書き換えるものとして評価した。 (2)Certeauの即興としての消費という視点から、アメリカ黒人作家Claude McKayの作品における人種的・民族的マイノリティの抵抗を分析した。特に、McKayの小説Banjoをとりあげ、帝国主義的な経済のネットワークとそれによる文化の支配を即興としての消費によって内破してゆく可能性を描いた作品であるという見方を提示した。従来はジャズを始めとした音楽的な側面においてのみ即興の問題が言及されてきたMcKayの作品について、グローバルなネットワークの中で生存するための抵抗戦略としての即興という視点から分析が可能であることを示し、20世紀初頭のマイノリティ作家にとっての即興概念の重要性を確認することができた。 (3)即興としてのジャズ、黒人音楽としてのジャズといった固定化した見解について、Adornoの文化産業の議論を参照して批判的に検討した。ジャズの批判者としての知られるAdornoについて、単一的な価値を押し付ける文化産業に対して新たな価値の生産の可能性としての即興性を高く評価している点を指摘し、即興が黒人音楽についてだけでなくAdornoが理想とするようなモダニズム芸術において広く支持された概念である、という可能性を提示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までのところ、研究はおおむね順調に進展している。新型コロナウィルスの影響で図書館の使用が制限されたり、海外からの資料の取り寄せに予想以上の手間がかかるといったトラブルはあったものの、科研費で購入した電子書籍リーダーなどで逆にすぐに資料を入手、閲覧できるようになったこともあり、カバーすることができた。 まだ論文としての成果にまとめる段階には至っていないが、20世紀初頭のアメリカにおける文化多元主義をはじめとした国家観・国民アイデンティティーについての言説を、即興という視点から整理する研究については順調に進展しており、William James やJohn Deweyらのプラグマティズム哲学における即興理念の分析もほぼ完了した。Zora Neale Hurstonの著作やエッセイにおいて示された即興概念をこれらの政治的言説への応答として読む作業も同時にすすめており、予定している研究のためのリサーチとしては3分の2ほどがほぼ完了した。また、当初の予定にはなかったが、Certeauの読み直しとMcKayにつての論文作成の過程において、ジャズ研究において重要な理論的参照点となっているTheodore Adornoについての独創的な解釈を提示することができた点は、思わぬ僥倖であった。 既に原稿としてまとめたMcKay論文については英語圏での投稿のための準備をすすめている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も研究計画に沿って予定通りに進めていくつもりである。20世紀初頭の国家・国民アイデンティティーの論争における即興性概念の重要性およびZora Neale Hurstonによる黒人の即興性の議論について論文としてまとめた上で、Alain Lockeら黒人思想家における即興概念への研究へと移る予定である。 研究の成果は海外の学会での発表および学術雑誌への出版を随時準備していく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルスの影響で学会発表や資料収集のための移動などを見合わせることとなったため、主として旅費の支出が予定よりも抑制された。 今年度も新型コロナウィルスの影響がどの程度生じるかは不透明であるが、研究が進むにつれて当初予定していたよりも参照すべき資料などが大幅に増えているため、さらなる研究遂行のために必要な物品の購入のために積極的に活用していきたいと考えている。
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