2021 Fiscal Year Research-status Report
A Bilingual Education Project in Jamaica: The Decision Making Process
Project/Area Number |
20K21995
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Research Institution | Tamagawa University |
Principal Investigator |
源 邦彦 玉川大学, 文学部, 助教 (10875587)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 経済的搾取・抑圧 / 人種主義 / 科学 / 言語学 / 社会学 |
Outline of Annual Research Achievements |
論文:「社会言語学の再構築に向けて―「人種」の主要概念化―」玉川大学文学部紀要『論叢』第62号 2022年,pp. 69~91.
概要:社会言語学,より正確には,米社会言語学は1960年代に誕生したと言及されることが多い。それは社会的存在としての言語を取り戻すこと,搾取,抑圧された言語変種を救済することを目的の一部としていた。しかしながら,社会学やほかの社会諸科学と同様に,国家主権と既存の人種階層化された世界秩序を正当化するより洗練されたディスコースを生産し始めたのである。そのディスコースによって,搾取,抑圧された変種とその使用者はある部分では救済されることにはなったが,根本では既存の人種階層化された秩序に拘束されることになったのである。本稿は当時の社会学的ディスコースがどのような点で萌芽期の社会言語学と一致していたのかを論考する。既存の歴史的研究や社会学批評では採用されなかった批判的人種論の視座から社会学と社会言語学の一致点を明らかにしたい。最終的には,搾取,抑圧された人種集団の言語変種と言語問題に関する一層の理解に資するべく,社会言語学の主要概念の一つとして「人種」を社会言語学に導入するための論拠を提供できればと願っている。
発見:1960年代の白人学者を中心とするアメリカ社会学には1)構造機能主義、2)社会秩序論、3)進化論、4)個人主義論が席巻していた。このディスコースの最たる特徴は、とくに人種マイノリティー集団の置かれた経済社会的劣位を正当化している点にある。そしてもう一つの大きな特徴は、これらの白人学者集団は、さまざまな理由を持ち出し人種概念を回避する傾向が強く、白人集団による搾取や抑圧のプロセスを分析するために人種を分析概念として使用する研究には関心を示さないという点である。この手法が、当時萌芽期にあった社会言語学に採用され、今日でもその多くが受け継がれている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
理由:研究が遅れている理由は、世界規模のコロナ感染拡大である。このため、玉川大学では教員による海外渡航許可が下りない状況であった。それと同時に、ジャマイカを含め世界各国も出入国には大変慎重な状態にあった。海外渡航が不可能であったため、本プロジェクトのコアを占める現地調査が実施できない状況にあったことがプロジェクト進行が遅れている原因である。
進捗状況:そこで、今後実施予定のジャマイカでの研究成果、また、これまでのアメリカ合衆国でのアフリカ系奴隷子孫の言語に関する研究成果を基に、いずれは論文として発表したいと考えていた研究テーマを前倒しし、2021年度中に発表することにした。ジャマイカを含め、ピジンやクレオールと呼ばれる言語を使用するアフリカ系ディアスポラのコミュニティーが直面する言語問題は、ある大きな共通点がある。それは、19世紀以降言語学では常にヨーロッパ諸言語を基準にピジン語、クレオール語として扱われ、また独立を経た今日も白人至上主義的経済政治システムゆえにそのクレオール語が独立言語として開発されず、ヨーロッパ諸言語よりも常に劣位に置かれ、大多数の民衆が母語で教育を受けかつ社会の主要な活動に参画できないという問題である。ここには、経済、政治、科学などさまざまな支配装置が働いている。そこで今回の論文では、そのような支配装置としての言語学が、旧欧米植民地が独立闘争を展開した時代に、どのようなディスコースを構築し既存の人種主義的社会構造を維持しようとしたのかを論じた。この論文では、言語学の一分野でもある社会言語学が、特に第二次世界大戦後からアメリカ社会学が構築していた論理のどの部分を採用したのか、白人集団、非白人諸集団がそれぞれ使用する言語変種の言語的平等に関してはある程度は認める一方で、人種間関係を含む社会的平等を認めない論理がどう構築され今日に至っているかを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、上述した通り、プロジェクトとは関係がありながらも、現地調査をしなくとも済む理論的研究に集中した。その一方で、次年度2月上旬に2週間程度ジャマイカへ出張できる期間を確保できたこともあり、現在は、しばらく休止していたこのプロジェクトに直接関わる事前研究を再開している。
1) ジャマイカ語と英語の二言語使用教育(そのほかの地域の例も調査)に関する既存のケーススタディーの調査再開 2) ジャマイカ語の独立の支持者、ジャマイカ二言語使用教育プロジェクトリーダーでもある西インド諸島大学モナ校教授Hubert Devonish博士の研究、ライフストーリーに関する既存資料調査再開
2月に予定している現地調査では、二言語使用教育プロジェクトの詳細に関する資料収集、プロジェクトの立案・実行・評価のプロセスでの教育省とのやり取りについての関係者へインタビューを実施する予定でいる。その予定の着実な実行のため、現地ではどのような資料を収集する必要があるのか、誰にインタビューをする必要があるのか、インタビューでは何を質問する必要があるのかを、より精緻化しておきたい。もちろん、現地で得た資料の中身を精査し、インタビューを実施した結果、あらためて調査する内容が出ることが予測される。これについては、もう一年研究期間の延長が認められるのであれば、2023年8月あるいは9月に2回目の現地調査を実施したいと考えている。ただし、この2回目の調査内容に関しては、一部分だけ調査内容に変更が生じる可能性がある。当初は、二言語使用教育の有効性に関連して現地の小学生に英語理解力調査を実施する予定でいたが、もし変更が可能であれば、この部分を、ジャマイカの二言語使用教育プロジェクトに思想的影響を最も強く及ぼしたHubert Devonish博士の経済政治思想、科学思想などを調査する研究に変更したいと考えている。
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Causes of Carryover |
本年度は、コロナにより現地調査ができないため、理論的研究に振り替えました。そのため文献購入により物品費が生じましたが、そのほかの費用はほとんど未使用のままとなっております。今後の使用計画を以下に述べます。 1) 2023年1月29日(日)~2023年2月12日(日) ジャマイカキングストン、西インド諸島大学モナ校滞在、資料収集、インタビュー(航空運賃:250,000円程度、ホテル滞在費:130000円程度、現地交通費:30000円程度、食費:50000円程度、インタビュー協力謝礼費:50000円程度、資料コピー費:5000円程度) <以下はもう一年延長が認められた場合> 2) 2023年8月27日(日)~2023年9月5日(火) ジャマイカキングストン、西インド諸島大学モナ校滞在、資料収集、インタビュー(航空運賃:200,000円程度、ホテル滞在費:80000円程度、現地交通費:20000円程度、食費:30000円程度、インタビュー協力謝礼費:50000円程度、資料コピー費:5000円程度)
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Research Products
(3 results)