2021 Fiscal Year Research-status Report
昭和期ユーモア小説に関する基礎的研究:ジャーナリズム出版戦略と読者受容の相互関係
Project/Area Number |
20K22001
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 貴之 追手門学院大学, 国際教養学部, 講師 (50881091)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | ユーモア小説 / 昭和 / ジャーナリズム / 太平洋戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では昭和期の「ユーモア小説」ジャンルについて、メディア的側面とジャーナリズム戦略から捉えなおすことを目的としている。 当初計画の最終年度であった2021年度は、前年度に引き続きCOVID-19ウイルスを起因とする社会情勢の影響により、計画通りに研究を遂行できたとは言いがたい結果となった。ただし初年度に比較して、徐々に各地域の図書館等が利用可能になってきたため、資料収集に関しては進展が見られた。特に昭和期ユーモア小説が掲載された婦人雑誌誌面の収集、および作家たちの回想や証言を収集したことで、ユーモア小説ジャンルが持つジェンダー傾向についても考察の端緒が開かれたと考える。 また、本研究の中心テーマである、戦時下のユーモア作家とジャーナリズムの関係を追う中で、太平洋戦争中の東アジア地域とユーモア小説、という論点も副次的に研究課題として浮かび上がってきた。そこから本年度は特に、ユーモア作家かつ婦人雑誌編集長であり、太平洋戦争中に陸軍宣伝班に徴用された北町一郎の従軍体験をモデルケースとして研究を進めた。彼の事跡はこれまでほぼ明らかにされていなかったが、シンガポール占領の瞬間に立ち合い、軍政部管轄の現地新聞の編集に携わったこと、そこで日本語小説を連載していたこと等が分かった。戦時下のジャーナリズム・軍政・国際世論の交差点として、シンガポール現地を描いた小説について分析を行った。この成果は、2022年度に査読付き研究誌に研究論文として掲載予定である。 これらの作業と考察は、当初の計画とはやや異なる方向に展開したように見えるものの、けして計画の逸脱ではなく、昭和期ユーモア小説とジャーナリズム戦略の関係を解き明かす上で、本研究の大目的に適った具体的な成果であると考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究はその目的上、第一段階として各地図書館・資料館に散在する資料体を確認・収集することを必要とするが、2020年度-2021年度上半期は先行きの見えぬ状況下で大距離の移動を自粛せざるをえない状況が続いた。また、各地の図書館等は休館あるいは限定的な公開状態であったため、新規の資料収集があまり進まなかった。 ただし、2021年度下半期ごろからは、段階的に図書館の封鎖解除等が始まり、勤務先における制限も緩和されたため、資料収集が徐々に進展した。 そこでの資料収集を契機として新たな研究課題も浮かび上がり、その面においては具体的な分析段階にも進んだ。 しかし依然として、各地資料館が蔵する稀覯資料の収集が難しく、当初の計画通りに進捗しているとは言いがたい状況となった。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、社会的な行動制限がほぼ解除されることと予想される。よって前々年度・前年度に行うはずであった資料収集・分析を早急に進める予定である。また、理論的枠組みとしてジェンダー研究やメディア研究の知見を用いる一助として、有志による研究会を2022年度より開始している。これらの研究会等での発表や議論を通して研究を更に進め、具体的な成果として学会発表や論文投稿を行いたいと考えている。期間を延長した上での最終年度にあたるため、本来2020-2021年度に作成する予定であったユーモア小説関係の文献リストの完成に努めたい。
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Causes of Carryover |
本研究計画における直接経費の執行は、主に遠方への調査にかかる費用(複写費、物品費、旅費、人件費)および、収集した資料整理の費用(物品費・人件費)を想定しているが、2020-2021年度上半期は、社会情勢により遠方へ赴くことができず、資料整理の費用もほぼ発生しなかった。2021年度下半期より資料収集を始めたものの、研究者自身に時間とエフォートが確保できず、次年度使用額が生じた。 2022年度は、前々年度と前年度の計画を繰り越して改めて調査を行う予定であり、適正な使用を行いたい。
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