2022 Fiscal Year Research-status Report
昭和期ユーモア小説に関する基礎的研究:ジャーナリズム出版戦略と読者受容の相互関係
Project/Area Number |
20K22001
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Research Institution | Otemon Gakuin University |
Principal Investigator |
佐藤 貴之 追手門学院大学, 文学部, 講師 (50881091)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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Keywords | ユーモア小説 / 昭和 / ジャーナリズム / メディア / 太平洋戦争 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では昭和期の「ユーモア小説」ジャンルについて、メディア的側面とジャーナリズム戦略から捉えなおすことを目的としている。2022年度は昨年度に引き続き、戦時下のユーモア小説の調査研究をおこなった。 まずユーモア作家であり婦人雑誌編集長であった北町一郎を焦点に、雑誌メディアの企画と実作との関係について更に研究を進めた。具体的には石川武美記念館での資料調査をおこなったことで、全体像がこれまで不透明だった婦人雑誌「婦女界」について、戦時下の刊行状況が判明した。 また、本年度は昭和前半期から戦後にかけて人気を博した獅子文六に関する基礎調査もおこなった。演劇家として活動していた彼が、戦前に諷刺的なユーモア作家として名を知られるようになり、戦中には新聞小説「海軍」の書き手として国粋的な熱賛を受け、また戦後にGHQ公職追放指令に至りかけるも即座に浮上し、映画やテレビドラマといった戦後メディア界で大きな存在感を占めるようになった経緯を、同時代の評価とともに追った。この調査研究は継続中で具体的な論考にはなっていないものの、派生的に一部の成果が2023年度に学会誌内の紹介文として掲載予定である。 また2022年度は、戦前から戦後にかけての上方文化・メディア・ユーモア小説の相関性についても研究を進めた。しゃべくり漫才をメディア上に大々的に普及させた秋田實、彼の盟友であり戦後ラジオコメディ台本を手掛けた長沖一らの発言や実作を収集調査した。結果としてユーモア小説が孤立したジャンルではなく、ラジオコメディや漫才放送、テレビドラマと近接していた点が浮かび上がってきた。この方向性は当初の研究計画にはなかったものの、メディアと小説ジャンルの接点を考察する本研究の目的に沿ったものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度は図書館・資料館等の制限がほぼ解除され、資料収集が一定進んだ。また、国立国会図書館のデジタル化資料に見られるように、当初計画とは異なる形での資料収集が可能になったことも功を奏した。 ただし、それら資料を用いた分析・考察が間に合っておらず、当初計画からすると論文執筆という面ではやや遅れていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は期間を再三延長した上での最終年度となるため、総合的に資料収集を進めるとともに、併行して具体的な分析や考察を進める予定である。ジェンダー研究やメディア研究の知見を用いる一助として、有志による研究会もおこなっている。こうした場での発表や議論を通して研究をまとめていき、具体的な成果として学会発表や論文投稿を行いたいと考えている。
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Causes of Carryover |
本研究計画における直接経費の執行は、主に遠方への調査にかかる費用(複写費、物品費、旅費、人件費)および、収集した資料整理の費用(物品費・人件費)を想定しているが、2020-2021年度上半期は、社会情勢により遠方へ赴くことができず、資料整理の費用もほぼ発生しなかった。2021年度下半期から2022年度にかけて本格的な資料収集が可能になったものの、研究者自身に時間とエフォートが確保できず、次年度使用額が生じた。 2023年度は、これまでの計画を繰り越して改めて調査を行う予定であり、適正な使用を行いたい。
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