2021 Fiscal Year Research-status Report
戦後ドイツの公的記憶に関する史的考察:ブラント政権下の歴史展示に着目して
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20K22007
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大下 理世 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (20880983)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 公的記憶 / 歴史展示 / 冷戦 / ドイツ / ブラント政権 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、旧西ドイツ(1949-1990)のヴィリー・ブラント政権下(社会民主党・自由民主党連立政権;1969~1974年)の行政機関によって企画された歴史展示とそれをめぐる議論の展開を検討する。具体的な論点は、[A]. 「歴史意識の醸成」を目的とする歴史展示――「1871年―ドイツ史を問う」(連邦内務省)――の内容と東ドイツの影響、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響の二点である。本研究は、これらの課題に取り組むことで、ブラント政権がどのような過去に関する記憶を「立場・世代を越えて語り継がれるべき記憶」(以下、公的記憶)とみなしたのか、そして、その記憶を国民に共有するためにどのような試みがなされたのか解明することを目指すものである。 2021年度は、課題[B]について、まず、連邦内務省文書に収録されている記録を通じて当時の訪問者の意見を検討することで、この歴史展示が多くの訪問者を獲得できた理由を検討した。次に、当時の歴史家がこの展示の成果と課題をいかに認識したのか、そして、歴史展示にあらわれた歴史認識に関する批判について、同時代のメディアでの報道や新聞・雑誌への歴史家の寄稿文の内容から検討した。 本研究の前提となるドイツ帝国(1871)の歴史的位置づけ、第二次大戦後旧西ドイツの歴史認識の変遷に関して、東京大学ドイツ・ヨーロッパ研究センター(DESK)ワークショップ(2021年8月)と戦後福祉改革期研究会(2022年3月)で報告した。また、以上の研究成果をまとめた論文の投稿を2022年度前半に予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が設定した二つの研究領域([A]. 「歴史意識の醸成」を目的とする歴史展示――「1871年―ドイツ史を問う」(連邦内務省)――の内容と東ドイツの影響、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響)の内、2021年度は、[B]に取り組み、第一に、歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」の訪問者や当時の歴史家がこの試みをどう評価したのか、そして第二に、歴史展示の政治的意図に対する歴史家の見解を検討することを予定していた。 2021年度は、同時代にラシュタットで企画された「自由を求める運動のための想起の場」運営委員の議論に着目し、そこで比較対象とされたベルリンの歴史展示に対する歴史家の評価を刊行史料から検討した。その結果、ベルリンの歴史展示は同時代に多くの訪問客を獲得したこと、そして同展示の企画に関わった歴史家の間で同展示が連邦共和国の公的な歴史博物館へと発展していくことへの期待があったことを明らかにした。 なお、2021年度も新型コロナウイルス感染症拡大の影響で当初予定していた渡航調査ができなかったため、本来2021年度までの本研究課題の期間延長申請を行った。それゆえ、課題[B]で必要な連邦文書館史料の収集は2022年度に行う予定である。 したがって全体としては、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、ヴィリー・ブラント政権下(1969~1974年)の歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」の内容とそれに対する国民、特に歴史の専門家である歴史家の評価を分析することで、この試みの成果と課題を明らかにすることを目的とするものである。 本研究が設定した二つの研究領域([A]. 「歴史意識の醸成」を目的とする歴史展示――「1871年―ドイツ史を問う」(連邦内務省)――の内容と東ドイツの影響、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響)の内、2022年度は、[B]. 歴史展示に対する訪問者、歴史家の反響、特に歴史展示の政治的意図に対する歴史家の見解を連邦文書館文書から検討する予定である。2022年度中にドイツに渡航しコーブレンツ連邦文書館を訪問する計画であるが、新型コロナウイルス感染状況により渡航できない可能性もある。そのため、上記のラシュタットの「自由を求める運動のための想起の場」に関する史資料を通じて研究を進めていく予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症拡大により、予定していたドイツでの渡航調査を断念したため次年度使用額が生じた。2022年度中に渡航調査を行う予定だが、感染状況により渡航が難しい場合は、これまでに収集した史料の分析に加え、日本およびドイツの刊行史料の収集・分析を行うことで、本研究課題を遂行する予定である。
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Research Products
(4 results)