2020 Fiscal Year Research-status Report
サファヴィー朝との合意文書によるオランダ東インド会社外交文書編纂の研究
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20K22012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大東 敬典 東京大学, 史料編纂所, 助教 (00871237)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | オランダ東インド会社 / 外交 / 法 / 編纂 / 日本 / ペルシア |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は新型コロナ感染症の世界的拡大のため、予定していたオランダ国立文書館での調査を行うことができなかったが、その他の課題には取り組むことができた。得られた成果は以下の通りである。 (1)オランダ東インド会社外交に関する基幹史料集『蘭領東インド外交文書集』を利用し、会社とサファヴィー朝の合意文書の総合的調査を行った。先行研究は絹貿易に関する一連の合意文書に注目してきたが、別系統として、通商・居住・信仰の自由、税制上の優遇など様々な商業特権を認める合意文書が存在することが判明した。 (2)それらの特権が双務的性格を持つものであることも明らかになった。1631年サファヴィー朝がオランダに派遣した使節は、オランダ連邦議会によって同地におけるイラン人の商業活動に関する様々な特権を与えられたが、その内容は先にペルシアにおいて会社に与えられた特権に相当程度対応していた。 (3)会社がアジア各地の支配者と結んだ合意については、通常現地語とオランダ語の両方で文書が作成されたが、会社はオランダ語版のみ収集し、Contractboekenと呼ばれる資料集を編纂していたことが知られている。この会社外交の鍵を握るcontractという概念について、オランダ語文書の特徴に即して分析を行った。具体的には、オランダ国立文書館所蔵オランダ東インド会社文書に含まれるサファヴィー朝君主アッバース2世発行のペルシア語勅令と、それに対応するオランダ語版を対照し、contract作成過程の一端を明らかにした。 (4)2020年4月『蘭領東インド会社外交文書集』研究会を立ち上げ、所収文書の翻訳を開始した。従来研究のように特定地域に注目するのではなく、シナ海域からインド洋にかけて地域横断的分析を行うべく、日本、台湾、タイ、マラッカ、ペルシアの文書を対象に翻訳を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
オランダ調査は断念せざるを得なかったが、そのための予算をローマ法・国際法関係資料の購入に充てることが可能となり、法制史の観点からオランダ東インド会社外交に接近するという新たな課題に取り組むことができた。2020年12月には西洋法制史の専門家が参加する研究会で報告する機会に恵まれ、法制史研究における国際法の形成という重要な課題に、本研究が深く関わっていることを確認できた。 『蘭領東インド会社外交文書集』研究会には、松方冬子氏(東京大学史料編纂所)、久礼克季氏(川村学園女子大学)、冨田暁(岡山大学)が参加している。コロナ禍のため対面での集会は一度も開けなかったが、オンライン開催によって翻訳を進めることができた。会社外交の法的側面に関する先行研究は、「国際法」「主権(国民)国家」等を分析対象乃至概念として用いてきた。しかし、それらの概念は会社の活動時期には形成過程にあり、本格的発展は19世紀以降を待たなければならないことは周知の事実である。そのため、近年の研究はそうした概念を先行する時代に用いることの妥当性に対し疑念を呈しているが、それを実証的に検討した研究は未だ乏しい。この一年間の研究会で、『蘭領東インド会社外交文書集』所収の合意文書には上記の概念では捉えられない多くの事例が存在することを確認できた。これらの事実を積み重ねていくことで、オランダ東インド会社文書という特定の観点から、より実態に即した世界史像を描く手掛かりが得られるはずである。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)2021年度はインドネシア国立文書館所蔵Contractboekenの調査を予定しているが、インドネシアへの渡航の見通しは立っていない。『蘭領東インド会社外交文書集』はオランダ国立文書館所蔵のContractboekenを主要典拠としているが、これまでの調査によって、同史料が元々バタヴィア(現ジャカルタ)で作成・複写された後、オランダ本国へ送られたものであることがわかっている。したがって、バタヴィア版Contractboekenは会社外交を理解する上で極めて重要な史料であり、必ず調査したい。しかし、本年度は日程が非常に厳しい。昨年度から延期されているイギリス・ウォーリック大学での研修(2020年10月調整中)の他、2022年1~8月、オランダ・ライデン大学からオランダ東インド会社文書の専門家を招聘し共同研究を行う予定である。状況によっては2022年度に予算を繰り越し、調査を実施することも検討したい。 (2)サファヴィー朝との合意文書の分析を進める。2020年度の研究成果について、2021年6月ヨーロッパ中央アジア学会(ESCAS)年次大会(於ウズベキスタン)において報告を行う予定であったが、コロナ禍のために中止になった。 (3)その代替として、2021年5月早稲田大学ロシア東欧研究所主催研究集会において報告を行う。現在博士論文をもとに英語単著を執筆中であるが、報告を踏まえて完成し、7月にハワイ大学出版会に投稿する。 (4)『蘭領東インド会社外交文書集』の翻訳成果の一部を、2021年7月『東京大学史料編纂所研究紀要』第32号(2022年3月刊行予定)に投稿する。本年度後半、研究会を再開しさらに訳文を蓄える。南アジアの合意文書にも対象を広げ、インド洋における会社外交の実態について検討を行う。 (5)法制史学会など、引き続き法制史研究者との意見交換の場を確保する。
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Causes of Carryover |
2020年度予定していたオランダ調査が実施できず、そのための予算を図書購入費に充てたが、上記の残額が生じた。同額は2021年度の物品費10万円に加える。インドネシア旅費30万円は当初の予定通り使用する予定である。
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Remarks |
以下の研究報告を行った。 ・大東敬典「ローマ法の基礎的事項の整理」鹿島学術振興財団研究助成:松方冬子代表「外交の世界史の構築―15~19世紀ユーラシアにおける交易と政権による保護・統制―」第2回研究集会、2020年12月25日 ・大東敬典「Octrooiとcontract―オランダ東インド会社外交の法的側面―」神戸大学経済経営研究所兼松セミナー、「紛争と秩序」研究会第2回研究集会、2021年3月26日
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