2021 Fiscal Year Research-status Report
サファヴィー朝との合意文書によるオランダ東インド会社外交文書編纂の研究
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20K22012
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大東 敬典 東京大学, 史料編纂所, 助教 (00871237)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | オランダ東インド会社 / 外交 / 法 / 編纂 / 日本 / ペルシア |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は新型コロナ感染症の世界的拡大のため、予定していたインドネシア国立文書館での調査を行うことができなかったが、その他の課題には取り組むことができた。得られた成果は以下の通りである。 (1)オランダ東インド会社外交に関する基幹史料集『蘭領東インド外交文書集』を利用し、会社とサファヴィー朝の合意文書の総合的調査を進めた。2020年度の調査では、先行研究が注目してきた絹貿易に関する合意文書とは別に、通商・居住・信仰の自由など様々な特権を認める合意文書が存在することを明らかにした。2021年度はその最初の例として1623年11月21付文書を翻訳し、必要な注を付して刊行した。同文書は、会社がペルシア進出直後にサファヴィー朝君主アッバース1世に請願し認められた合計23の特権を伝えるものであるが、会社が王のムスリム臣民に対して改宗を強要することを禁じた文言も含まれ、王朝による信仰の管理に関する貴重な情報も伝えていることを示した。 (2)会社がアジア各地の支配者と結んだ合意については、通常現地語とオランダ語の両方で文書が作成されたが、会社はオランダ語版のみ収集し、Contractboekenと呼ばれる資料集を編纂していた。2020年度の調査では、アッバース2世発行のペルシア語勅令(farman)とそれに対応するオランダ語contractを対照し、会社がfarmanをcontractに作りかえた過程の一端を明らかにした。2021年度もこのcontractという概念の曖昧さについて分析を進め、Contractboekenに収録されたサファヴィー朝君主の勅令の中には、王朝の行政官に宛てられた命令が含まれており、会社の言うcontractが必ずしも会社と王の間の合意という形式を備えていないことを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に予定していたオランダ調査は断念せざるを得なかったが、その後オランダ国立文書館によるオランダ東インド会社文書のオンライン公開が進み、当初予定していなかった史料調査が可能になった。その結果、オランダの17人会及びアムステルダム・カーメルからバタフィア総督府(現ジャカルタ)へ送られた訓令の中に、アジア各地で結ばれた合意に対する会社重役たちの見解が含まれていることが判明した。 その一方で、2021年度にインドネシア調査を実施できず、バタフィア総督府側の認識については研究が進まなかった。幸い本研究期間を一年延長することができたので、本年度にこの課題に取り組みたい。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)2023年はじめにインドネシア国立文書館所蔵Contractboekenの調査を行いたい。『蘭領東インド外交文書集』はオランダ国立文書館所蔵のContractboekenを主要典拠としているが、同史料は元々バタフィア総督府で作成・複写された後、オランダ本国へ送られたものである。インドネシアのContractboekenは大部な編纂物であると思われるので、ペルシア由来の合意文書に限定して調査を行う。ペルシア由来の合意文書に関しては、これまでの調査で、『蘭領東インド外交文書集』とオランダのContractboekenの収録文書に違いがあることが判明しているが、オランダとインドネシアのContractboekenの間にも違いがあるのかどうか確認する。また時間が許せば、東アジア由来の合意文書も調査したい。オランダのContractboekenに収録された中国・日本に由来する文書は、会社と両地域の長い交流を考慮すると数が限られている。同様のことがインドネシアのContractboekenについても言えるのか確かめたい。 (2)研究が乏しいサファヴィー朝滅亡後の合意文書の分析を行う。その成果をもとに、2022年8月頃、筑波大学塩谷哲史准教授、ケント大学Peter Good講師とともに、2023年3月アジア研究協会年次大会(於ボストン)のパネル発表に応募する。 (3)その報告を踏まえて英語単著を完成させる。 (4)『蘭領東インド会社文書集』の翻訳成果の一部を、2022年7月『東京大学史料編纂所研究紀要』第33号(2023年3月刊行予定)に投稿する。『蘭領東インド外交文書集』研究会においてさらに訳文を蓄える。ペルシア、セイロン、コロマンデルの合意文書を対象に、インド洋における会社外交の実態について検討を行う。
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Causes of Carryover |
2021年度に予定していたインドネシア調査が実施できず、そのための予算を使用することができなかった。物品費は予定通り使用した。上記の残額は今年度インドネシア旅費として使用する予定である。
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Research Products
(4 results)