2020 Fiscal Year Research-status Report
戦後日本の出入国管理政策と東アジア地域における「国籍」問題に関する歴史的考察
Project/Area Number |
20K22016
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
李 英美 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特任講師(ジュニアフェロー) (20876255)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 国籍 / 東アジア / 運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1960年代から1970年初頭の東アジア地域における旧植民地出身者の「国籍問題」を事例に、戦後日本の出入国管理政策の展開を、東アジアの文脈のなかで検討するものである。同時期は、日韓条約の締結や沖縄返還、日中国交正常化など東アジア国際関係の激動下で、旧植民地出身者の在留資格・国籍問題が、改めて問われた時代である。本研究では、①サハリン残留朝鮮人の日本への帰還問題や、②在日朝鮮人の「国籍」をめぐる(書き換え)運動、③沖縄の台湾人社会の帰化問題などを事例に、旧植民地出身者の国籍問題が日本国内の文脈に留まらず、東アジア地域の国籍問題として同時代的に提起されていた様相を検討する。 2020年度は、1960年代を中心に、この時代の東アジアの国際関係の変化をめぐる状況が、旧植民地出身者の国籍問題にどのような影響を与えたのかを、①地方自治体における在日朝鮮人の外国人登録証の「国籍欄」書き換え、②サハリン残留朝鮮人の帰還をめぐる運動から検討した。①については、自治体行政のなかで「外国人登録」の国籍欄書換えをめぐる議論の推移を、行政文書を中心に検討した。 ②については、日本で展開されたサハリン残留朝鮮人をめぐる運動および裁判関係資料を中心に検討した。以上のように、国籍問題が争点化する現場(地方自治体、運動、法廷)から、旧植民地出身者の国籍の解釈をめぐる各現場の対応と認識を通じて、戦後日本の出入国管理政策の実態と、各地域の旧植民地出身者らが提起した国籍問題との相克を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの進捗状況は、国内の行政資料(地方自治体編纂の行政文書や、裁判関係資料)及び関連文献の収集を実施している。2020年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、国内の感染流行地域および国外への渡航調査が困難な状況であった。だが、国内の出入国管理関係の行政文書や、運動団体の記録、関連文献の収集に努めたことで、基本的な関連資料を重点的に渉猟することができた。それにより、本研究デーマを深化させるための先行研究及び関連文献の検討を行い、今後、さらに詳しく調査を進めていく事項が明瞭になった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き関連史料の収集に努めながらも、2020年度に得られた実績を体系的に整理して成果としてまとめあげる。とくに2021年度は、2020年度に未着手であった在沖縄台湾人社会の「日本国籍」取得・帰化問題について検討して、日本の在日朝鮮人社会、サハリンの朝鮮人社会における事例との比較検討を行っていく。それにより、日本が旧植民地出身者の国籍・戸籍に関する処理を、国籍法の改正や特別措置法などの法律によらず、法務省民事局長通達により一律に日本国籍を喪失させたことで発生した、日本国内外の残留者や離散家族、その背景となる二重国籍/無国籍者の発生の原因と構造を考究する視点を、東アジア国際関係史のなかで再考する。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型コロナウイルス感染症拡大防止の観点から、国内の感染流行地域および国外への渡航が制限されたことで、当初予定していた調査計画の実施が叶わなかった。2021年度は、移動が可能な国内の調査地から順に調査を実施し、夏以降に国外への渡航も可能であるか判断した上で、必要な場合には速やかに調査地の変更調整を実施する。
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