2021 Fiscal Year Research-status Report
植民地期台湾農村における農業技術の社会史――経験・利用・創作に注目してーー
Project/Area Number |
20K22017
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
都留 俊太郎 京都大学, 人文科学研究所, 助教 (00871401)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 台湾 / 水利 / 技術 / 環境 / 農業 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初予定していた台湾農村調査を実施できなかったことから、今年度は主に研究成果の発表・刊行に取り組んだ。 まず、日本統治期台湾農村における灌漑技術の創造的利用にかんする論文(英文)を執筆し、査読誌に投稿した。年始に査読結果の連絡があり、コメントにもとづいて加筆修正のうえ年度末に再投稿し、再び査読を受けている。同論文では、台中州北斗郡の事例をもとに、台湾人農家による原動機ポンプの利用のほか、龍骨車の利用、風車の創作について論じている。従来の植民地期にかんする研究で広くみられた、単純な技術普及中心史観を大幅に修正する内容である。また、農機具をめぐる農民間の関係についても検討しており、技術史・経済史のみならず、社会史研究への貢献を目指している。加えて、公文書や企業文書のみならず、郷土資料や在来言語によるオーラル・ヒストリーも活用しており、方法的な革新も試みている。 さらに、農業技術の利用の背景となった経済史・社会史的背景について、「李応章的摩托車:二林街的経済発展和蔗農事件」と題して、「世界・啓蒙・在地:台湾文化協会一百週年紀念」シンポジウムにて研究報告をおこなった(於・台湾中央研究院台湾史研究所、オンライン、中文)。その後、コメンテイターの意見を参照して、論文を執筆し投稿した。現在、審査中である。同論文では、台中州北斗郡を事例として、1920年代に市街地が形成され、地域経済の構造に根本的な変容が生じていたことを明らかにした。市街地の形成にともなう農具商の登場は、農家の技術利用の前提となったと考えられる。専売局档案や郷土資料などの新資料を利用することで、従来より具体的な検討を実現した。 このほか、堀内義隆『緑の工業化――台湾経済の歴史的起源』(2021年)の書評(日文)を執筆し、投稿した。次年度に刊行される予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
コロナ禍により当初予定していた台湾農村調査は延期を余儀なくされたが、代替的な方法で課題に取り組み、論文の刊行を進めており、概ね予定どおりの成果を得られる見通しであるため。 現地調査のかわりに、調査地の助手の協力のもとでオンライン・インタヴューをおこなったほか、先行研究の検討、文献資料の収集・解析を進めた。また以前におこなった調査の資料を再検討した。論証に必要な素材をそろえることができている。さらに、調査を予定していた期間を研究成果の執筆にあてることで、二本の研究論文(英文・中文)を投稿できた(現在、いずれも審査中)。 今後、台湾への入国が可能になり次第、予定の調査を実施することで、研究の完成度をさらに上げることができる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初予定していた台湾農村調査を実施することで、研究の完成度を上げることができる。ただし、現時点では渡航の見通しは立っていない。 幸い、最低限必要となる資料はこれまでの調査で収集しており、またオンライン・インタヴュー等の代替的な方法をもって補足調査も可能である。渡航が無理な場合は、これらの方法で、資料を収集し、分析する。前年度まで外国語で成果を公表してきたことから、今年度は日本語による学会発表、論文投稿を目指す。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により予定していた台湾農村調査を実施できなかったため次年度使用額が生じた。渡航が可能になり次第、調査を実施する予定で、これに使用する計画である。もし渡航が不可能な場合は、論文の執筆・修正に注力する予定であり、外国語の校正費用にあてる計画である。また論文執筆に必要となる資料・書籍購入費にも使用する計画である。
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