2020 Fiscal Year Research-status Report
Social and Cultural Transformation of Byzantine Armenia Under the Arrival of the Seljuks
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20K22022
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
仲田 公輔 岡山大学, 社会文化科学研究科, 講師 (10872814)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | アルメニア / ビザンツ / 境域 / セルジューク朝 / シャッダード朝 / ムサ―フィル朝 / ヴァスプラカン王国 / サージュ朝 |
Outline of Annual Research Achievements |
当初の計画通り、今年度は本研究の第一の課題であるセルジューク朝進入時にビザンツ領となっていたアルメニア人の現地有力者と侵入者たちとの政治的交渉と地域社会の構造の変化についての考察を行った。 従来の見解では現地有力者を取り除いた10-11世紀のビザンツ支配がセルジューク朝の侵入を容易にし、アルメニアに混乱をもたらしたとされてきたが、実態はより複雑だった。中長期的視点から捉え直すと、ビザンツ支配はそこまで大きなターニングポイントではない。アルメニアはそれ以前からアッバース朝の衰退にともなって出現した様々な地方勢力の侵入を受けていた。その中でアルメニアの有力者たちの一部は、ビザンツ帝国への恭順を選んだのである。その際、彼らがビザンツに求めていたのは第一に安全と軍事的支援だったが、帝国は当初軍隊を送ったものの、その後はむしろ境域防衛のために地元勢力を利用し、間接統治体制を取ることを志向した。一部のアルメニア人有力者たちは安全を求めてビザンツ帝国内地に移住したが、現地に残った有力者も多く、彼らは帝国統治下でも周辺勢力の攻撃に晒され続けることとなったのである。こうした残存有力者について十分な考察がなされてこなかった。 ビザンツの統治に対して残存有力者は様々な反応を見せたことが、アルメニア語史料から明らかとなった。現地に駐屯するわずかなビザンツ軍有力者との婚姻関係による人的紐帯を結ぶなど、ビザンツを頼りにした生存戦略を取るものもいたが、軍事的支援を与えない割に宗教的な統制をはかったり、バルカン方面へのアルメニア人の軍事力の転用をはかるビザンツに早々と見切りを付けるものもいた。この状況下で11世紀半ばにアナトリアへの侵入を始め、勢力を拡大しつつあったセルジューク朝は、アルメニア人勢力の一部からは、むしろ新たな秩序をもたらす存在として期待されていたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
もとより国外調査は前提としない計画を立てていたが、国内研究機関での資料調査もままならなかったのは痛手であった。ただし、ある程度は相互貸借や電子書籍の利用等でカバーすることはできた。既に手元にある史料を視点を変えて分析することで得られた成果もあることも付記しておく。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度中に状況が好転し、海外での資料調査等が行えるようになることに期待したい思いもあるが、楽観はできない。そのため海外での調査研究を前提としない計画を立てる必要があると感じている。今後はセルジューク朝侵入期のアルメニアの社会・文化の変容についての考察を進めていくことになるが、その際に重要となるのが写本コロフォンや歴史叙述の分析である。本来であれば海外図書館・文書館を訪れ、写本レベルに立ち返って考察したいところではあるが、デジタルコピーの取り寄せや刊本の活用でカバーしたいと考えている。 一方、予定していた海外学会での成果発表に関しては、学会・研究会等のオンライン化に伴い、問題なく行うことができると考えている。 本年度の成果についての個別投稿論文も用意中である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大の影響で資料調査等を延期したため。
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Research Products
(2 results)