2020 Fiscal Year Research-status Report
第二次世界大戦後の中東欧における送還者・残留者の歴史研究:シレジアを中心に
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20K22025
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Research Institution | Shumei University |
Principal Investigator |
衣笠 太朗 秀明大学, 学校教師学部, 助教 (40888012)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | ドイツ人の追放 / 中東欧 / ドイツ / ポーランド / 境界地域 / 現代史 / 人の移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、これまでドイツ史や東欧の国民史に分断されてきた第二次世界大戦末期から1970年代半ばにかけてのシレジア地域史を、「未完の戦争」テーゼに基づいて捉え直そうとするものである。 令和2年度においては、以下のような成果・研究実績を挙げることができた。第一に、11月に日本ピューリタニズム学会の研究会において、研究発表を実施した。これは「第一次世界大戦後のオーバーシュレージエン/グルヌィシロンスクにおける分離主義運動――カトリック人民党(中央党)との関係を中心に」と題された報告で、本研究の分析対象地域であるシレジアについて、第二次世界大戦期から戦後期の前提となる戦間期に焦点を当て、その住民たちの集団的な帰属意識を明らかにしようとしたものである。 第二に、論集である岩井淳・竹澤祐丈編『ヨーロッパ複合国家論の可能性――歴史学と思想史の対話』の原稿が校了した。報告者は、この論集の第4章「複合国家の近現代――シュレージエン/シロンスク/スレスコの歴史的経験から」を担当しており、この論文もまた、20世紀のシュレージエン地域についての考察を深めるものである。そうした意味において、本研究との関連性は非常に密接である。 第三に、令和3年1月6日にハプスブルク史研究会において、「旧ドイツ領全史の舞台裏」という研究発表を行った。『旧ドイツ領全史』は、報告者が昨年度に出版した単著であり、その記述の一部は本研究のテーマである「シレジアにおける人の移動や残留」に割かれているなど連関が強い。そこでの議論を踏まえて、今後の研究活動を改めて構想し、修正していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
令和2年度においては、研究計画において予定していた在外研究が新型コロナウイルス感染症の影響で実施できなかったという事情があるからである。 それでも、国内での資料調査などにおいて進展があった。第一に、研究と直接関連するドイツ史や中東欧史に関する日本語文献の収集を包括的に実施した。これにより、本研究に必要不可欠な情報にアクセスすることが可能となる。第二に、歴史学や人文社会科学に関する重要な日本語文献の収集も行った。近年の歴史学は長足の進歩を見せており、そうした研究動向に追いつくためにも、関連文献の読み込みは重要である。 また、資料調査以外では、すでに収集済みの史資料の読み込みを進めている。具体的には、本研究のテーマである「第二次世界大戦後の中欧東における人の移動」に関する文献や史料(例えばPhilipp Ther, Deutsche und polnische Vertriebene: Gesellschaft und Vertriebenenpolitik in SBZ/DDR und in Polen 1945-1956[ドイツとポーランドの追放:1945-1956年のソ連占領地区/ドイツ民主共和国およびポーランドにおける社会と追放政策], Goettingen 1998)を読み、それをもとに研究発表を行う準備を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
最重要の推進方針としては、早期にドイツ、ポーランド、ウクライナでの在外研究を実現させ、その際に本研究に関わる史資料を収集するということが挙げられるだろう。これを行わない限りは、本課題の目指すような極めてオリジナリティのある研究成果を上げることは不可能である。それゆえに、以後は研究計画調書で挙げたアントーニ・クノートおよびカジミエシュ・クッツに関する史料を入手することを最優先の目標としたい。 ただしこれは世界的なコロナ禍の状況に左右されるものであり、渡航が実現しない場合には、本年度と同様に国内での調査と研究活動を実施できる準備も進めていく。また、本課題の枠組みの中で、実施年度の1年延長も考慮する必要があるだろう。以上のように、いくつもの可能性を考慮しながら、慎重に研究活動を遂行していきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
主な理由は新型コロナウイルス感染症によるパンデミックである。当初の計画では、史資料調査のために25万円程度の海外渡航費・滞在費・調査費が発生する予定であったが、コロナ禍で実現不可能となり、次年度使用額が生じたということである。
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