2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K22026
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
上田 誠二 日本女子大学, 人間社会学部, 准教授 (80882589)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 「混血児」 / オーラル・ヒストリー / 生存 / 教育 / 労働 / 占領政策 / 高度成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「混血児」(以下、括弧を外す)のライフコースをオーラル・ヒストリーによって跡づけるものだが、2021年度は神奈川県在住の○○氏(男性)のお話をお聴きした。11月に実施した聴き取りでは、○○氏のライフコースの全体像をうかがった。 澤田美喜によって混血児のために1948年2月に創立されたエリザベスサンダースホームにあって、○○氏はいわば「遅れてやってきた」混血児といえる存在であった。サンダースホームの混血児の多くが占領下生まれであるのに対して、○○氏は高度成長下でベトナム戦争が激化する前夜に生まれている。生まれてすぐに児童相談所に預けられ、その後ホームにやってきたという。ホーム在籍時は手のかかる「悪ガキ」だったそうだが、澤田美喜や先生方のあたたかい支援のなかで、○○氏は人一倍澤田やホームに愛着をもっていたようである。 ゆえに、当時の慣例どおり中学卒業と同時にホームを離れるのは辛かったようで、県内で仕事に就いたものの、新生活になかなか馴染めなかったという。複数の仕事を経験したそうだが、1980年5月に澤田美喜が亡くなると大きなショックを受け、サンダースホームの先輩の混血児を頼って他県に移り住んでいる。そこでは仕事や生活で大きな失敗を経験するが、そんな時も混血児の仲間たちが助けてくれたという。十数年前に神奈川に戻り、仕事では一定の成功を収め現在に至っている。 今回、混血児のライフコースの波乱万丈さを垣間見た一方で、決して仲間を見捨てない混血児たちの強い「つながり」を知ることができた。それは、様々な苦悩や逆境を仲間と共に乗り越えていくセーフティーネットとでもいうべきものであり、今後の研究にとって重要な視点を得ることができた。 なお、本研究の補助線的議論として、明治以降現在に至る女性をめぐる感情史について、時期区分を試みた論考を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の状況下、話し手の年齢や健康などに配慮し、聴き取りを十分に実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度に聴き取りを実施した○○氏(男性)の聴き取りを継続するのと同時に、彼の紹介によって、彼より一回り上の世代で、エリザベスサンダースホームの混血児第一世代といえる当事者2名(女性と男性)の聴き取りを実施する。この二人は、○○氏が仕事や生活で困難に遭遇した時に彼を支え続けた人物たちである。 以上の聴き取りを段階的に実施したのち、その内容を分析し、かつ、同時代の雑誌資料や新聞資料など混血児をめぐる時代状況も調査・分析し、論文「「混血児」のオーラル・ヒストリー序説 ―生存・教育・労働、そして現在」(仮)としてまとめる準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大のために、聴き取りを十分に実施できなかった。次年度は精力的に聴き取りを実施し、その成果の論文化の準備を進める。 そのため、話し手が現在住んでいる遠方に数回出向く予定であり、旅費が発生する。また、聴き取りの音声データをテープ起こしする際に諸経費が発生する。その他、話し手たちが生きた時代である、占領・復興・高度成長・低成長時代そして現在へと至る戦後史における混血児をめぐる雑誌記事や新聞記事を収集するため諸経費が発生する。
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