2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K22026
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
上田 誠二 日本女子大学, 人間社会学部, 准教授 (80882589)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2024-03-31
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Keywords | 「混血児」 / オーラル・ヒストリー / 生存 / 教育 / 労働 / 占領政策 / 高度成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦後日本で産まれた「混血児」のライフコースをオーラル・ヒストリーによって跡づけ、人種的な差別を受け止め、はねのけていく、そのしなやかな生きざまの解明を目的としている。2022年度は2021年度に引き続き、神奈川県在住の○○氏(男性)の聴き取りを実施し、とくに労働の場での苦労についてお話をうかがった。 ベトナム戦争が激化する前夜に神奈川県で産まれた○○氏は、すぐに施設にあずけられ、その後、小学校・中学校で学んでいく。中学卒業に際して進路指導の教師からは進学ではなく就職を勧められている。県内で数種の仕事に就くが長く続かず、1980年代初頭に児童養護施設の先輩を頼って他県に移り住む。そこでも生活は不安定で、40歳を過ぎたころ、2000年代後半に心機一転、神奈川県に戻ってくるが、当初は「ハーフ」「外人」との偏見から仕事上で差別を受けることもあったという。 しかし、持ち前の明るさと、モットーである「気張らない」「まじめにはたらく」という姿勢を貫き、現在は個人事業主として自営業を営み、生活は安定している。高齢者世帯で仕事をすることが多く、その際は相手に伝わるように「にごり言葉を使わない」「はっきり言う」を心がけ、信頼される仕事を目指しているという。総じて仕事は「人助け」だと語っている。そして現在、仕事は多忙を極めているが順調だという。 「混血児」のライフコースにおける労働を今回は焦点化し聴き取りを行ったが、○○氏が仕事で差別を受けても相手を責めることなく、人とのつながりを財産として労働に喜びを見出している姿を確認できたことは、今後の研究にとって大きな示唆となった。 なお、本研究の補助線的議論として、○○氏が生まれ育ったころの神奈川県と米軍との関わりを地域の視点や女性の視点から跡づけた論考を発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
新型コロナウイルス感染拡大の状況下、話し手の年齢や健康などに配慮し、2022年度も聴き取りを十分に実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021・2022年度に聴き取りを実施した○○氏(男性)の紹介によって、彼より一回り上の世代で、同じ施設における「混血児」第一世代といえる当事者2名(女性と男性)の聴き取りを実施する。この二人は、○○氏が仕事や生活で困難に遭遇した時に彼を支え続けた人物たちである(当初の計画では2022年度にお二人の聴き取りを実施する予定だったが、高齢であることに配慮し延期した)。併せて、他の施設や、家庭において育った「混血児」の方の聴き取りも行っていく。 以上の聴き取りを段階的に実施したのち、その内容を分析し、かつ、同時代の雑誌資料や新聞資料など「混血児」をめぐる時代状況も調査・分析し、論文「「混血児」のオーラル・ヒストリー序説 ―生存・教育・労働、そして現在」(仮)としてまとめる準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染拡大のために、2022年度も聴き取りを十分に実施できなかった。次年度は精力的に聴き取りを実施し、その成果の論文化の準備を進める。 そのため、話し手が現在住んでいる遠方に数回出向く予定であり、旅費が発生する。また、聴き取りの音声データをテープ起こしする際に諸経費が発生する。 その他、話し手たちが生きた時代である、占領・復興・高度成長・低成長時代そして現在へと至る戦後史における「混血児」をめぐる雑誌記事や新聞記事を収集するため諸経費が発生する。
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