2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K22026
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
上田 誠二 日本女子大学, 人間社会学部, 准教授 (80882589)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2025-03-31
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Keywords | 「混血児」 / オーラル・ヒストリー / 生存 / 教育 / 労働 / 占領政策 / 高度成長 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦後に生まれた「混血児」の生存・教育・労働の過程=ライフストーリーをオーラル・ヒストリーの手法を用いて跡づけ、とくに教育経験がその後の人生にいかなる意味をもったかを解明することを目的としている。2023年度は、2021・22年度に収集した聞き取り資料を基軸に、そこに文字資料や映像ドキュメンタリー資料の分析を加えて論文化の作業を行った。 第1に、神奈川県在住の○○氏(1960年代前半生まれ、男性)への聞き取り内容(オーラル資料)と、彼が中学生時代に書いた作文及び彼の教育に携わった教師の文章(テクスト資料)とを読み解き、とくに教育から労働への接続と展開について検討した。具体的には、○○氏が教育経験やそこで得た仲間の支えによって、仕事を転々としながらも20代・30代を生き抜いた姿を、さらに40代以降の氏が個人事業主として社会貢献をなし得ている様子を描出した。 第2に論文では、そのような彼が、かつて自分を支えてくれた先輩たち、すなわち1940年代後半に生まれた「混血児」第一世代の生きる姿を次世代に伝えるべく、「混血児」をめぐるドキュメンタリー番組の制作に協力し、とはいえ実際に放映された番組には物足りなさを感じたことなどを検討した。番組では、戦後における「混血児」への差別や抑圧が前景化して描かれ、先輩が日本社会の差別を克服し現在も仕事を続け社会参画をなしている姿が不可視化されており、そのことに対して番組制作に際して窓口となっていた○○氏は物足りなさを感じていたのであった。 総じて「混血児」が、人種的な差別を受け止め、はねのけ、むしろ日本社会のなかに自ら分け入り、積極的に人間関係を切り結んでいたことが確認でき、今後も「混血児」のオーラル・ヒストリー研究を継続していく上で大きな示唆を得ることとなった。 なお、以上の内容は、現在、学術雑誌に研究ノートとして投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
論文作成のための資料読解や映像分析に時間をかけすぎてしまい、2023年度は聞き取りを十分に実施できなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
論文作成で大変お世話になった○○氏(男性)の聞き取りを継続するとともに、氏の紹介によって、彼より一回り上の世代で、同じ施設と学校を卒業した「混血児」第一世代といえる当事者2名(女性と男性)の聞き取りを実施する。この二人は、○○氏が仕事や生活で失敗や挫折を経験した際に、彼を支え続けた人物たちであり、自分の育った施設や学校に深い愛着を抱いている先輩たちである。当初の計画では2023年度にお二人の聞き取りを実施する予定だったが、論文執筆作業を優先したため実施できなかった。併せて、他の施設や家庭において育った「混血児」の方の聞き取りも行っていく。 以上の聞き取りを段階的に実施したのち、すでに投稿している研究ノートの続編として、同時代の雑誌資料や新聞資料など「混血児」をめぐる時代状況も調査・分析した上で、研究論文ないし書籍として「「混血児」のオーラル・ヒストリー」(仮)をまとめる準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
論文執筆作業のため、2023年度は聞き取りを十分に実施できなかった。次年度は精力的に聞き取りを実施し、その成果の論文化ないし書籍化の準備を進める。 そのため、話し手が現在住んでいる遠方に数回出向く予定であり、旅費が発生する。また、聞き取りの音声データをテープ起こしする際に諸経費が発生する。 その他、話し手たちが生きた時代である、占領・復興・高度成長・低成長時代そして現在へと至る戦後史における「混血児」をめぐる雑誌記事や新聞記事を収集するため諸経費が発生する。
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