2021 Fiscal Year Research-status Report
現代宗教と胎児生命観の変容:日本と台湾の「プロライフ運動」を通して
Project/Area Number |
20K22036
|
Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
陳 宣聿 大谷大学, 真宗総合研究所, 研究員 (40880315)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
|
Keywords | 政治と宗教 / 人工妊娠中絶 / 保守主義 / ジェンダー |
Outline of Annual Research Achievements |
1、台湾における中絶と宗教の全体像を提示:報告者は立法院の議事録、新聞、そしてインターネットでの資料収集と聞き取り調査を通して、台湾における優生保健法制定と修訂をめぐる論争及び宗教との関わりを整理した。台湾において、中絶に対する議論が盛んになる時期は、1980年代前半から中盤と2000年代以降の二つに分けられる。二つの時期ともキリスト教団体を中心に反対意見を示したが、政治環境の違いによってその戦略も異なっていることが分かった。特に2000年代以降、民主化した台湾社会において、政策面から中絶に反対するのみならず、養子縁組の斡旋、妊娠損失のカウンセリングなど、団体間の役割がさらに細分化していくことが分かった。その成果は研究発表、学会発表の紀要として公開している。 2、「プロライフ」団体の多様性:研究調査を始めた当初、報告者は日本と台湾で、それぞれ自国内において多宗教、宗派の連携によって展開された生命尊重の運動について着眼してきた。しかし、調査を進めるにつれて、キリスト教のネットワークを通しての自国内のみならず、国境を越えて胎児の生命尊重を唱える団体が存在することが分かった。報告者は2021年東京に行われたマーチフォライフのデモ行進、台湾におけるカトリック系団体のオンラインイベントへの参加を通して、その国際的な展開に対して初歩的な理解を得た。 3、1980年代以降日本の「プロライフ運動」の展開に関する調査:日本における中絶反対運動の先行研究は1970年代から1980年代に焦点を当て、特に新宗教団体「生長の家」の動きが注目されてきた。報告者は国会図書館所蔵の「生命尊重センター」に関する出版物を利用し、欠落した1980年代以降の動きを補完することを試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2021年度の達成度を判断した理由は、以下の通りである。 1、「オンライン」での資料収集の成果と制限:昨年度に続き、新型コロナウィルスの感染拡大によって台湾での実地調査が困難であるため、ジェトロ・アジア経済研究所所蔵の新聞、及び立法院の議事及び発言システムを通して、1982年から2012年まで台湾における優生保健法の制定と修訂をめぐる資料の整理をした。これらの調査を通して、台湾における優生保健法をめぐる論争の全体像を掴みつつある。しかし『中国天主教文化協進会会訊』といったカトリック内部の雑誌資料がまだ入手困難であり、またオンラインインタビューができたものの、現地での儀礼の調査ができなかった。そのため、さらに現地で緻密な情報収集が必要と感じた。 2、状況の適応と「オンライン」の展開:新型コロナウィルスのパンデミックによって、国内、国際間の移動制限が強化される中、インターネットを通して新たな展開が見えてきた。報告者はSt. Gianna Prolife Center(台湾)、マーチフォライフ(日本)などの団体のオンラインの集会に参与観察及びオンラインインタビューを実施した。オンラインでの集会は各団体の内部のメンバーで情報交流の手段として利用できる一方、St. Gianna Prolife Centerの場合は、さらにカトリックのネットワークを活用し、国際間の交流が強化される傾向が見える。各団体にとって、オンラインの達成と限界、及びポストコロナの状況がいかに展開するのか、研究を重ねる必要があると感じた。 以上の達成点と不足点を総合的に考え、やや遅れていると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
報告者は現時点で日本と台湾におけるプロライフ団体4つとアクセスすることができた。中でもカトリック的な背景を持つものが多く見られる。今年度の成果報告で、キリスト教の背景を持つプロライフ団体はキリスト教のネットワークを通して、国際的な展開することが判明した。次年度はさらにその側面を掘り下げる予定である。従って、次年度は国際的な「プロライフ運動」の展開を意識し、日本と台湾におけるプロライフ運動の発展と様相を明らかにすることを今後の研究の推進方策にする。中でも、欧米社会のプロライフ運動からの影響、そしてそれらの戦略はいかに日本と台湾の宗教環境へ適応するのかについても注目していきたいと考える。具体的な実施内容は以下の3つがある。 1、組織側へのインタビュー調査:報告者は、①団体と所属の教会との関係性、②他の団体との関係性、③組織変遷、④参加者像の4点に集中し、インタビュー調査を実施する予定である。これを通して、各団体の性質の違いが浮上し、比較と類型化も可能であると考える。 2、組織の出版物の分析:報告者は、プロライフ団体の出版物の内容に関する分析と考察を行う。出版物の内容の分析を踏まえた上で、出版物の翻訳もしくは作成の経緯、流通のルートについても調査する予定である。 3、実地調査の実施:新型コロナウィルス感染症の状況に左右されるが、今年度の調査によると、次年度から実体活動を再開しようとする団体もある。報告者はこれまでのオンラインでの調査と併用しながら、団体が主催するイベントの参与観察を行い、活動の様相を記録する予定である。 また、最終年度に向けて、報告者は研究発表、研究論文を通して、研究成果の社会への還元に務める。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由:昨年度と同様に、新型コロナウィルス感染症の拡大に伴って、学会の中止及び開催形式がオンラインに変更されることにより、大いなる影響を受けた。また、情報収集がオンラインとなったこと、報告者の所属変更により調査地への利便性が高まったことにより、実地調査及び資料収集のために使用する予定の旅費の支出が大幅に減少した。 次年度の使用計画は以下の2点である。 1、実地調査での使用:新型コロナウィルス感染症の収束状況によって、必要に応じて検温、検査、マスク着用に注意を払った上で、実地調査の再開も視野に入れる。調査の関連費用として次年度に使用する予定である。 2、研究成果の情報発信での使用:最終年度となるため、報告者は学会発表に参加し、研究論文を投稿する予定である。また、より広く研究成果を発信するために、第6回アジア未来会議(The 6th Asia Future Conference )などの国際学会へ参加する予定である。
|
Research Products
(3 results)