2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K22050
|
Research Institution | Hiroshima Shudo University |
Principal Investigator |
松本 奈津希 広島修道大学, 法学部, 助教 (90876707)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
|
Keywords | 生存権 / 最低生活保障 / 租税負担 / 裁量統制 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は、生存権の「自由権的側面」の現代的意義を確認し、それに依拠しつつ違憲審査の手法を解明することを目的として、研究実施計画に基づいて以下の研究を遂行した。 第一に、ドイツにおける生存権の自由権的側面の意義を探求するために、最低生活費にかかわるドイツ連邦憲法裁判所の判例(BVerfGE 152, 274, Beschluss v. 19. 11. 2019)を分析した。この判例の詳細に検討を加えた内容については、ドイツ憲法判例研究会にて報告を行った。さらに、社会法上の判例(BVerfG, Urteil des Ersten Senats vom 5. November 2019- 1 BvL 7/16 -.)との比較検討を行った結果、これらの判決は先例と比較して「例外的」なものであると位置づけることが可能であることが判明した。その際、両判決の違憲審査の手法にも着目した。 第二に、今日の日本における生存権訴訟の現状を知るために、一連の生活保護基準引き下げ訴訟を分析した。とりわけ、唯一の勝訴判決である大阪地判(令和3年2月22日賃社1778号)は、日独の違憲審査の手法をつなぐ架け橋になりうるとも捉えられるため、注目に値する(詳細につき、拙稿「生活保護基準引下げと生存権(「いのちのとりで」裁判)」新・判例解説Watch第29巻(2021年)23頁。)。 以上のようにして獲得した知見や成果をまとめて、拙稿「生存権保障における立法・行政裁量と手続的統制──ドイツの「例外的」判例と「整合性要請」を契機として──」一橋法学20巻2号(2021年)147頁を執筆することができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
研究実施計画および前年度の「今後の研究の推進方策」に基づき、ドイツ連邦憲法裁判所の2019年の税法判例を分析することができた。そこでは特に、本判例が租税立法者の類型化余地という、租税に特殊な裁量を持つことを明らかにすることができた。また、これは社会法上の最低生活ないし社会立法者の裁量とは一線を画すものであるということが判明したことも、自身の研究にとって有意義な作業であったといえる。 このように、本研究は着実に遂行されていると評価しうるが、他方で、令和3年度は前年度に引き続き、コロナウイルスの影響により、国内外における資料収集が困難であった。とりわけドイツにおける在外研究や資料収集を行うことが出来なかったことは、本研究のうちの、違憲審査の手法の解明にとっての障害となった。そのため、現在までの進捗状況は(3)やや遅れていると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、昨今のコロナウイルスの感染拡大状況にも鑑みて、これまでに得られた知見をもとに、主として日本国内の生存権訴訟のあり方を検討を進める。その際、最高裁判所の判例だけでなく、下級審判決にも目を向ける。近年の下級審における生存権領域における立法・行政裁量の統制手法は、手続的統制に近接的であるともいえるため、非常に注目に値する。 また同時に、租税等による最低生活への介入事例の位置づけや違憲審査の手法にも注目していく。このようにして、税法と社会保障法のあいだに存在する最低生活保障のあり方を、憲法的観点から探求する。 なお、ドイツにおける最低生活保障と違憲審査の手法については、国内で入手可能な文献の調査を中心として、引き続き検討を進める。
|
Causes of Carryover |
コロナウイルスの影響により、ドイツでの在外研究および資料収集、研究会への出席ができなかったため、国外出張のための旅費として計上していた費用が次年度使用額として生じた。 この次年度使用額は、主としてドイツ法関連書籍の購入に充てる。比較法的知見からの文献調査を通じて、在外研究で得られる予定であった成果を可能な限り賄う予定である。
|