2020 Fiscal Year Research-status Report
国際刑事裁判所における共犯の処罰限定原理の研究:中立的幇助の視点から
Project/Area Number |
20K22051
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
横濱 和弥 信州大学, 学術研究院社会科学系, 講師 (90878422)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 国際刑事裁判所(ICC) / 幇助 / 中立的行為 / 中核犯罪 / 共犯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、国際刑事裁判所(ICC)が管轄する中核犯罪の「周辺的関与者」(強制収容所の掃除・炊事係のように、犯罪組織の体制維持に寄与しているものの、組織の日常的職務を担当したに過ぎない者)の処罰の限界を探ることにある。採択1年目たる本年は、周辺的関与者の責任に取り組む前提作業として、ICC規程上の2つの共犯概念(「幇助犯」および「集団犯罪への寄与」)の基本的要件を整理するために、近時の国際刑事法廷の裁判例と、学術論文等を検討する作業を中心的に行った。 本年度の研究成果は、次の通りである。(1)ICC以前の国際刑事法廷(特にICTY・ICTR)の判例では、幇助の成立要件として、援助行為が正犯の犯行に対して「実質的な」(substantial)効果を有する必要があるとの定式が定着しており、初期のICCでも、これを踏襲し、幇助犯や集団犯罪への寄与といった共犯形態の成立のために、寄与に最低限の敷居が存在するとの立場が採られていた。このように、寄与に一定の「重さ」を要求することで、周辺的関与者による寄与を排除しようとの姿勢が見られた。(2)これに対して、近時のICC判例では、そのような寄与の最低限の敷居は、幇助犯・集団犯罪への寄与の成立要件としては不要との立場が定着しつつある。(3)一見、このような立場を厳格に貫くと、たとえば武力紛争の捕虜収容所において虐待がなされていることを知りつつ、収容所の掃除・炊事係として虐待体制維持に協力した者にも、直ちに犯罪が成立しかねない。もっとも、ICC規程上の共犯形態の下では、ICTY・ICTRの幇助犯よりも敷居の高い主観的要件(犯罪容易目的)が要求されているため、これを通じて周辺的関与者の刑事責任を限定できる場合もありうるとの中間的な帰結に至った。 以上の成果は、2021年度6月締切の所属大学紀要『信州大学経法論集』に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
一年目の研究を通じて、従来の国際判例における共犯の「寄与」要件の内実については、その大枠を示す見通しを立てることができた。当初計画では、二年目においては、周辺的関与者の共犯責任を合理的な範囲に検討することを目的に、ドイツ刑法等で盛んに論じられている「中立的行為を通じた幇助」の議論を参照し、これをICCにおける議論に応用できるかを検討する作業に入る予定であった。 もっとも、一年目の検討の結果、特にICCにおいては、共犯の主観的要件が当初の予想以上に高度の敷居となっている可能性があることが明らかとなった。それゆえ、本研究の関心事である、周辺的関与者の刑事責任を合理的な範囲に限定するという作業を行うにあたっては、直ちにドイツ法等の中立的行為に関わる議論の検討に入るのではなく、その前段階として、ICC規程上の共犯の主観的要件に関する検討も行う必要があるとの結論に至った。 以上の意味で、当初予定していた、ドイツ刑法等における中立的行為の議論をICCの議論に応用するという点からみれば、研究の進捗としては「やや遅れている」との評価を与えた。もっとも、これは、研究の進展に伴って新たな重要課題が発見されたことを意味する。ただし、ドイツ刑法等における中立的行為に関する文献の収集には一定の目処が付いていること、および、ICCにおける犯罪の主観的要件一般に関しては、既に論文執筆経験があることから、遅れを取り戻すことは可能であると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)これまでの研究により、ICCの共犯規定における主観的要件は、英米刑法(特にアメリカ法)に由来する点があることが明らかになっている。それゆえ、まずは英米圏の共犯の主観的要件に係る文献を渉猟し、これを参考とすることで、ICC規程における各共犯形態に係る主観的要件の内実を解明する。(2)その上で、ICC規程上の共犯形態における主観的要件をもって、周辺的関与者の刑事責任を適切に限定できるかどうかを明らかにした後、主観的要件が十分なフィルターとならない部分については、補助的に、ドイツ法における中立的行為を通じた幇助の議論を応用して、さらに処罰範囲の限定を図れないか、明らかにすることを目指す。 以上の成果については、当初予定通り、年度内中に国際ジャーナルの投稿を目指すものとする。時間的制約その他諸種の事情でこれが困難である場合、所属校紀要への投稿も見据え、柔軟に対応する。なお、研究費については、英米圏およびドイツ語圏の書籍等の購入費に中心的に充てつつ、国際ジャーナルに投稿する際には、スペルチェック・校正費用に充てるものとする。
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Causes of Carryover |
(次年度使用額が生じた理由) ・当初計画で見込んだよりも安価に研究が進んだだめ、次年度使用額が生じた。 (使用計画) ・次年度使用額は令和3年度請求額と合わせて消耗品費として使用する。
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