2021 Fiscal Year Research-status Report
公務災害補償制度と民間労災補償制度との制度間比較研究
Project/Area Number |
20K22052
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
弘中 章 信州大学, 学術研究院社会科学系, 准教授 (00878382)
|
Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
|
Keywords | 災害補償制度 / 労災保険制度 / 公務災害 / 過労死 / 過労自殺 / 令和3年過労死認定基準改正 / 公務員法 |
Outline of Annual Research Achievements |
災害補償分野においては、実体面(認定基準等)で官民の制度が近接する傾向にあるところ、本年度は、近接化がもたらされる理由について考察し、論文としてまとめることに注力した。「過労死認定基準に見られる労働法と公務員法との影響関係」と「盛岡地判令和2年6月5日」の判例評釈が研究成果である。 前者については2021年9月に過労死認定基準(行政基準)が官民双方において改正されたことに着目し、改正過程での議論と改正結果を官民で比較したものである。労災における認定基準改正の趣旨を公務員法が追随していった過程が明らかとなる一方、公務員法の側で改正の趣旨を考慮しつつも従前の規定の体裁を維持する対応をとった結果、規定の違いが残る場面も観察された。これを踏まえ、官民で趣旨を共通にする以上、認定基準の違いが救済の違いをもたらさないような運用が求められる点を指摘した。あわせて、官民で近接化が進む原因として、①災害補償分野においては公務員法の側で労災との均衡が強く意識されており、民間での制度改正が進むと公務員法が即応する動きを示す傾向にあること、②実体基準が医学的基準(自然科学的基準)であるため官民でこれを区別する理由が乏しいことの2点について、人事院での改正議論の内容を援用しつつ主張した。 後者は、地方公務員の過労自殺に関する公務外決定を取り消した裁判例の評釈である。判例(司法審査)において業務(公務)起因性の判断基準が官民で区別されていない点が改めて確認される一方、裁判例が部分的であれ認定基準(行政基準)に依拠するとすれば官民の認定基準の違いが裁判例にも反映されうることについて指摘した。 このほか、公務員労働法制に関する実務家向けの書籍の執筆に参加している。研究代表者については、2021年9月に、担当である公務災害に関する報告をグループ内で行うなどして本研究の成果を書籍に反映させる作業を続けている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
まず、2021年9月に過労死認定基準が改正されたことを受けて同改正に着目した前記論文をまとめる作業を行ったため、研究計画の一部に変更があったことがあげられる。また、引き続きコロナ禍の影響によって訪問調査(実務家インタビュー、英国調査)が実施できていないことも大きい。以上から、補助事業期間の延長を申請し、承認を受けた。
|
Strategy for Future Research Activity |
災害補償分野では補償の可否を判断していく過程(手続)に官民で大きな違いが存在することはすでに指摘しているところであるが、2021年度は実体面に重きを置いた論文執筆が中心となったため、今後は手続面での考察に重心を移し、その違いをどのように評価すべきかにつき検討する。そして、実施未了の調査については、以上の手続面での研究を推進するための手段として位置づける。 第1に、国内調査については、東京・大阪・福岡の弁護士へのインタビューを考えているが、前記論文で明らかにした知見も踏まえながら現行制度の問題点に対する実務家の見解を聴取することで、現行制度の問題点が生まれる原因を特定することを目指す。特に、官民での手続の違いに問題の原因があるという仮説が実務家にどこまで受けいれられるかについて注目する。 第2に、英国調査では、同国の災害補償制度において認定手続の官民での違いを主たる調査目的とし、今年度中に確実に実施する。なお、2021年度中は、英国労働法研究会に参加して事前調査の契機とするとともに、2022~2023年に英国の大学院に留学を予定している弁護士にアプローチするなどして渡航時に活用しうるネットワークの構築にも動いたところであり、これらの資源も活用していきたい。 なお、前述した公務員労働法制に関する実務家向けの書籍については、22年度中の脱稿を目指している。
|
Causes of Carryover |
コロナ禍の影響により旅費(及び被調査者に対する謝礼)が執行できていないことが主たる原因である。
|
Research Products
(5 results)