2020 Fiscal Year Research-status Report
憲法上の情報プライバシー権の実効的救済に関する研究
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20K22055
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
音無 知展 京都大学, 法学研究科, 准教授 (60882016)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 抽象的権利の司法救済 / 適正取扱い担保措置を求める権利 / 立法作用と司法救済 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の研究成果は,大きく二点に大別される。まず,第一に,憲法上の情報プライバシー権の抽象的権利に当たる部分(以下「情報プライバシー権の抽象的権利部分」という。)についての自分の理解を再検討し,位置づけ直した。研究開始当初は,当該部分を手続的権利と捉えるとともに,本人同意又は選択は含まれないと考えていた。しかし,研究を進めるにつれて,当該部分は,適正な個人情報の取扱いを担保するための措置(以下「適正取扱い担保措置」という。)を求める権利と位置づけるべきであると考えるに至った。また,本人同意又は選択についても,標準的な適正取扱い担保措置に加えて,例外的に簡易で保障の薄い適正取扱い担保措置が考えられる場合に,その間での選択を本人に認めるという意味で抽象的権利部分にも本人の同意又は選択の要素が含まれ得ることが分かった。 第二に,情報プライバシー権の抽象的権利部分(自己情報開示請求権)の具体化に関わる裁判例が平成30年,令和元年,令和2年に出たことから,それを通じて裁判例の動向及び憲法学説に対する理解を研究した。その結果,裁判例は,抽象的権利を具体化する立法がない,又は不十分である場合に,積極的に抽象的権利を具体化して地位を認める(例えば,自己情報開示請求をし得る地位を認める)ことは,立法作用に当たるがゆえにできないと考えているようであることが分かった。そしてその理解を前提にした場合は,違憲確認の訴えによって救済を得られる可能性が国民審査に関する裁判例で示されていることも明らかになった。また,そもそも上記立法作用の理解は,最高裁判例(在外邦人選挙権判決や国籍法違憲判決)に反している可能性があり,立法作用又は立法権の理解を問う必要性が高いことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下の二点で,今年度の研究は,当初の研究計画からやや外れた。 第一に,当初は,自らが博士論文において提示した知見に基づき,抽象的権利部分の明確化・類型化を図る予定であったが,様々な方からのご指摘や自分自身による再考の結果,本研究課題の前提となる情報プライバシー権の抽象的権利部分の理解に関連して,いくつかの再検討すべき重要事項が存することが明らかになった。そのため,その作業をまず行った。 第二に,当初は情報プライバシー権の内容と救済方法に関するアメリカ法の研究を,日本法の本格的な検討よりも先に行う計画であったものの,情報プライバシー権の抽象的権利部分(自己情報開示請求権)の具体化に関わる裁判例が平成30年,令和元年,令和2年に出ていることが分かったことから,それを通じて裁判例の動向及び憲法学説に対する理解を先に研究することとした。 以上の結果,全体としては,やや遅れている状況であると評価する。第二の点は順序が変わっただけで,実質的な遅れではないと言い得るが,第一の点によって少し進度が遅れたことは否めないからである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,次の二点を並行して研究していくつもりである。第一に,アメリカ法を参照しつつ,情報プライバシー権の抽象的権利部分に該当する事項のリストを充実させていく。第二に,アメリカ法における救済法の議論も参照しつつ,日本国憲法41条に定められた「立法」概念を検討して国会が定める法律の専管事項を明らかにすることで,裁判所による抽象的権利の暫定的な具体化が本当に憲法41条に反するのか否かを考察する。この第二の点のうち,「立法」概念については,当初想定していたよりも遥かに多くの議論の蓄積があり,法律の留保の議論とも密接に関連する形で議論されてきたことが判明した。それゆえ,まずは予備的考察として法律の留保の議論から憲法41条の「立法」概念の考察を進めていくことも検討している。
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Causes of Carryover |
理由は二つある。第一に,旅費として20万円を想定していたが,新型コロナウイルスの影響で出張がなくなったためである。第二に,幸いなことに多数の本を贈っていただけたことから,当初想定していたよりも,書籍代を節約することができたからである。 アメリカの書籍が日本のものに比べて高額なことから,アメリカの図書の購入費に次年度使用額を充てることを計画している。また,オンラインでの学会報告を分かりやすくする機器やオンラインでの学会への参加環境を整える機器を整備することも考えている。
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Research Products
(1 results)