2021 Fiscal Year Research-status Report
議会反対派による執行権統制をめぐる新展開の研究-変動する権力分立論の下における
Project/Area Number |
20K22058
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
磯村 晃 大阪大学, 法学研究科, 招へい研究員 (30870878)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 議院内閣制 / 執行権概念 / 会派の法的地位 / 会派による政府統制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の課題は、議会内少数派とりわけ政府を支持しない議会反対派による政府統制を実効的なものにするためにどのような理論が提唱されているのかを明らかにすることである。現在は、比較法研究の手法を用いて、ドイツの判例・学説を分析している。 令和3年度には、ドイツ公法学の研究成果に依拠して、議院内閣制下の政府統制主体としての《会派》に着目した研究を行った。かつてのドイツ公法学の支配的学説(1960年代後半から1990年代前半ごろまでの通説的見解)は、議院内閣制下での権限関係を「政府=与党」対「反対派(Opposition)」の二元的対立図式に基づいて把握していた。このような把握は、すでに日本の憲法学でも「新たな権力分立」として紹介された。二元的対立図式に基づいて、統制の主体は「反対派」として、また統制の客体は「政府」として、それぞれ一元的に把握されてきた。しかし、その後のドイツ公法学では、統制の主客の一元的把握に対して、いくつもの有力な批判が行われた。とくに1990年代後半から、かつての支配的学説のように「Opposition」を組織的に「反対派」と理解することに対しては、一連の有力な批判論が展開された。その結果、現在は一般的に「Opposition」は作用的に「反対」として理解されるようになった。そして2000年代以降、「反対派」に代わる政府統制の主体としての(反対)会派をめぐる議論に画期的な進展があった。 ゆえに、令和4年度には、議院内閣制における政府統制主体としての《会派》は、ドイツの判例・学説においてどのように理解されてきたのか、そして2000年代以降にどのような画期的学説が登場したのかを紹介・検討する。この画期的学説の分析・省察を通じて、日本ではまだ明らかになっていない《会派》による政府統制の法理論を比較法研究の成果とし、当該年度中にはそれを発表する機会を得たいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
進捗状況の報告対象期間となる令和3年度も、前年度に引き続き、コロナ禍の影響を受けた。申請当初に計画されていた外国での研究調査も、コロナ禍が深刻化する中でEUが日本からの渡航を原則禁止する措置を講じたことによって見送ることを余儀なくされた。外国(とくにドイツ)で実施される予定であった資料収集や本研究で取り上げる予定をしていた学説の主唱者との意見交換・質疑応答なども未だに実現できていない。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、航空会社の運行停止や減便が行われるといった事態も生じている。こうしたコロナ禍での状況やロシア・ウクライナ情勢の悪化に起因する渡航制限が継続していることもあり、本研究の進捗状況は、申請当初に立てられた計画からやや遅れをとっている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の遂行に残された期間である令和4年度には、法主体としての《会派》それ自体の研究成果を明らかにするとともに、この研究成果に基づいて、反対会派による政府統制の法的手段についての研究を進める。なぜならば、ドイツ公法学では、政府に対する議会の統制は通常は反対会派によって行われると言われているからである。具体的には、「議員の4分の1の申立」(基本法44条1項)に基づいて設置できる議会の調査委員会を通じた反対会派の調査権(少数派調査権)に着目した研究を行う。 近年のドイツでは、例えば第18立法期(2013-2017)の大連立政権下において、基本法44条1項に基づく少数派権行使のための定足数をそもそも満たさない反対会派が生じた。こうした状況において、ドイツ公法学では、反対会派の調査権行使による政府統制の意義についての活発な議論が行われた。この問題は反対会派を申立人とする訴訟にも発展し、結果的に連邦憲法裁判所は、基本法に「議会反対派専属の権利」を導入すべきとの反対会派からの請求を棄却する判決を下した。同判決の論拠づけ、とくに議会反対派専属の権利を基本法に導入することは特定の会派を優遇することになり、基本法38条に基づく議員およびその結合体(会派)の平等原則に違反するとの判示をめぐって、ドイツ公法学では論争が起こった。今後は、この論争の分析を通じて、ドイツ公法学における会派の政府統制権とりわけ反対会派の調査権について、それがどのような統制的意義を有していると考えられているのかを明らかにする。
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Causes of Carryover |
進捗状況の報告対象期間となる令和3年度も、前年度に引き続き、コロナ禍の影響を受けた。申請当初に計画されていた外国での研究調査も、コロナ禍が深刻化する中でEUが日本からの渡航を原則禁止する措置を講じたことによって見送ることを余儀なくされた。外国(とくにドイツ)で実施される予定であった資料収集や本研究で取り上げる予定をしていた学説の主唱者との意見交換・質疑応答なども未だに実現できていない。さらに、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、航空会社の運行停止や減便が行われるといった事態も生じている。こうしたコロナ禍での状況やロシア・ウクライナ情勢の悪化に起因する渡航制限が継続していることもあり、本研究は、申請当初に予定された使用額、とくに旅費の支出が見送られているために、次年度使用額が生じた。 次年度以降は、申請当初の計画(とくに旅費の使用計画)を再度見直した上で、引き続き海外への出張可能性を探ることにする。もっとも、現在のように新型コロナウイルスの感染拡大やロシア・ウクライナ情勢の悪化がなおも続くようであれば、オンライン面接に切り替えるなどの代替措置も検討したい。
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