2020 Fiscal Year Research-status Report
リバタリアニズムにおける分配施策の理論的基礎―ベーシック・インカムを中心に
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20K22060
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
福原 明雄 九州大学, 法学研究院, 准教授 (90878258)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | リバタリアニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究には大きく分けて二つの課題があり、それは①リバタリアニズムを主とする分配的正義論についての検討と②ベーシック・インカム(BI)をはじめとする分配施策の理論的・思想的検討、の二つである。 提出した研究実施計画では、令和2年度の本研究は、特に②をBIを中心に進めるというものであったが、既に挙げているKarl WiderquistのIndependence, Propertylessness, and Basic Income以上に私が考えてきたリバタリアニズムの構想に接続できそうな、理論的な深化が感じられる文献には出会えていない。多くの文献が具体的な美点、政治的・財政的な可能性、社会民主主義的な望ましさ、ありがちな批判への応答を述べるにとどまっており、新たなBIの構想(解釈・見方・理解など)を基礎付け、打ち出しているように見えるものには出会えなかった。やはりBIの拒否権的な理解が最も親和的であるのかもしれないと考えつつある。 この間、コロナ禍の現状において、多くの人が働くこと自体が困難になるという事態から、BIは急激に(特にヨーロッパで)現実味を帯びたということが示唆的であった。というのも、これまでの無条件給付ということの意味合いは、労働市場の事情による失業や、働くことを積極的に拒否しても生きていける(自由の実現)という点にあったように思われるが、公衆衛生上、職場に行くことができないことで仕事から遠ざかることがBIの問題になるとは考えていなかった。また、コロナ禍が長引くにつれて、精神的な疲労や自殺が増えてきており、働くか否か、仕事をできるか否かを金銭の問題に結びつけて考えるだけで良いのか、と考えるに至り、リバタリアニズムは自らの足で立つことを前提にしているように思われるが、仕事・働くということ自体についてどのように捉えているのかを考える必要があると考えるに至った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
②について、十分な時間を割いて読み進められているが、必ずしも想像したような真新しい発想に到達してはいない。しかし、そのことはこれまでに私が行ってきた研究が少なくとも大きく的外れではないものだと示してくれているのだと考えている。また、①の問題へとつながるような新たな示唆への足掛かりを引き出せたと考えていることから、事前に計画した通りのものでも、劇的な進展があったわけでもないが、順調に研究を遂行できているもの考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
②については、新たな発想を求めて、引き続き渉猟を続けていくことにする。①について、令和2年度に見つけた、リバタリアニズムにとっての仕事とは何なのか、理論上どのような扱いを受けるべきものであるのかという問題も扱いたい。この点が、分析的マルクス主義との議論の種になったことは明らかだが、仕事そのものが何なのかについて、改めて考え直したい。また、仕事をすること自体について、何らかの職を持っていること自体が社会的な承認を与える、あるいはそれに伴い福利が生じることは理解しているが、それはリバタリアニズムが仕事に求めてよい価値であるのかを考える。たとえば、ロールズは「意味ある仕事」を社会的自己実現や自尊の基礎に据えたが、このような他者(社会)からの承認による自尊等を、リバタリアニズムは共有できる(してよい)のか。このことはノージックが自己所有権を構成するために挙げた「人生の意味」ということとどう関わるのか(関わらないのか)にも考えを進めることで、リバタリアニズム自体の再検討を進める。
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Causes of Carryover |
年度内に発売される予定であった書籍を購入するつもりで予約していたが、発売スケジュールの変更が年度末直前に生じ、他の必要書籍を注文しても間に合わないという事態が生じたため、次年度使用額が生じた。当該書籍は既に無事に発売されているので、令和3年度に購入することにしている。
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Research Products
(1 results)