2020 Fiscal Year Research-status Report
米国市民の国際貿易協定に対する反発―一般的信頼による貿易選好の形成―
Project/Area Number |
20K22072
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤田 将史 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任研究員 (80882878)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 貿易 / 世論 / アメリカ / 一般的信頼 / 格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、近年の米国では貿易から利益を得る人々が増えているにも拘わらず、なぜ国際貿易協定に対する市民の反発が根強いのかを明らかにすることである。そのために2020年度には、①仮説の精緻化、②仮説検証のための計量分析の実施、③研究会・学会での発表と修正、の主に3つを行った。 まず第一に、既存研究を幅広く渉猟し、仮説の精緻化を行った。本研究では、貿易協定に対する市民のリスク認知を左右する要因として、「一般的信頼(generalized trust)」に注目している。その上で、格差拡大による米国市民の一般的信頼の低下が、米国が貿易から損害を被るという否定的なリスク認知を生み、貿易協定に対する反発を強めているという仮説を構築した。以上の仮説を精緻化するため、一般的信頼についての社会心理学・経済学といった他分野の既存研究を確認し、その知見を仮説へと反映させた。 第二に、仮説の検証のため、大規模世論調査であるANES(American National Election Studies)2016と米国国勢調査のデータを使った計量分析を進めた。具体的にはまず、地域の産業構造が第一次産業・製造業中心からサービス業中心へと移行し貿易の利害の不確実性が高まるに連れて、一般的信頼が市民の貿易選好に影響を与えるようになることを確認した。さらに、米国内での経済格差の拡大が、市民の一般的信頼の低下につながっていることを確認した。 第三に、この分析結果を論文にしたものを、第67回駒場国際政治ワークショップ(Zoomミーティング、2020年7月22日)と日本国際政治学会2020年度研究大会(Zoomウェビナー、2020年10月25日)で報告した。報告では、国際政治経済学や計量分析などの専門家から、理論・実証の両面について有益なコメントを得ることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、2020年度に計量分析を行うことを予定していた。具体的には、分析に必要な一般的信頼・国際貿易協定に対する選好・その他統制変数(教育水準・所得水準など)についてのANES(American National Election Studies)のデータと、各地域の産業構造や格差についての米国国勢調査のデータを使い、仮説を検証することを計画していた。上述の研究実績として述べたように、2020年度には仮説を精緻化した上で計量分析を実施し、仮説に合致する結果を得ることに成功した。すなわち、産業構造が変化し貿易の利害が不明瞭になるに連れて、一般的信頼が米国市民の貿易協定に対する賛否に影響するようになること、及び、地域の格差が大きくなるほど一般的信頼が低下することを確認できた。 第67回駒場国際政治ワークショップ(Zoomミーティング、2020年7月22日)と日本国際政治学会2020年度研究大会(Zoomウェビナー、2020年10月25日)で得られたコメントに基づき、現在は計量分析をさらに精緻化させる作業を行っている。そのため、計量分析が完了してはいないものの、おおよそ期待通りの成果は得られており、「おおむね順調に進展している」と評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、研究報告で得られたコメントを基に、計量分析のさらなる精緻化を進める。具体的には媒介分析を用いることで、一般的信頼が貿易協定への選好に与える影響の分析と、格差が一般的信頼に与える影響の分析を統合し、より厳密な検証を試みる予定である。 また、新聞資料などを使った事例研究により、因果メカニズムについての確認も進める。ただし、当初の研究計画で予定していたアメリカでの現地調査やインタビューについては、コロナ・ウィルスの流行の影響で実施できるかどうか不明確である。現地調査やインタビューが難しい場合には、既存の世論調査データを使って、計量分析で因果メカニズムの検証も試みるといった対応を採る予定である。例えば、一般的信頼の低下が貿易協定のリスク認知に影響しているのであれば、他の国際制度のリスク認知にも同様の影響が見られるはずであり、その影響を確認することによって因果メカニズムの信頼性を高めることができる。 上述のように検証を進めた上で、研究成果を論文としてまとめ、雑誌への投稿を行っていく予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由については、コロナ・ウィルス流行のため職場ではなく自宅で研究する時間が長くなり、職場の研究用物品として購入を予定していたものの購入を一部見送ったことが主な理由である。また、RAに依頼する予定であったデータセット作成作業の一部についても、コロナ・ウィルス流行のために延期した。 2021年度には職場での研究が徐々に可能になり、RAについても再開の見込みであるため、従来2021年度分として請求した助成金と次年度使用額を合わせて、計画通りの全額を執行する予定である。
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