2020 Fiscal Year Research-status Report
高齢化社会での年金の持続性に関してー家計の観点を考慮した場合
Project/Area Number |
20K22084
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小寺 寛彰 東北大学, 経済学研究科, 講師 (60881828)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2022-03-31
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Keywords | 年金システムの維持 / 高齢化 / 家計 / 年金制度 / 税制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、進行する高齢化での年金システムの維持に関して、家計という独自の観点から分析を試みた。具体的には、1)年金の支出を賄うために、若年世代の税負担はどのくらいか、2) 年金制度の改革は、税負担をどのくらい軽減させるかを、定量的に評価し、更に、家計の税制度、年金制度 と年金システムの維持との関係性も併せて検証した。 分析のために、まず、モデルを構築した。モデルは、家計の異質性を考慮した世代重複モデルである。年齢、資産、生涯の平均所得、そして個々の健康状態の異なる家計が、今期の消費、そして来期のための資産を選択する。加えて、ある一定の年齢に達したのち、家計は、年金を受給できる資格を得て、受給開始を今期から行うか、来期以降にするかも選択できる。 モデルを構築した後、その付随するパラメーターを2010年のアメリカ経済と一致させるように設定し、続いて、2100年のアメリカ経済のシミュレーション分析を行った。現在、得られた結果は以下の三点である。まず、2100年のアメリカ経済は、2010年と比べて、高齢化が進行し、年金の総支出が相対的に増加する結果、政府が高い税を追加的に課する必要があり、たとえ政府が年金受給開始年齢を70歳にまで引き上げたとしても、追加的に課す税は依然高いままである。次に、仮に、家計の年金制度を廃止し、年金が、個人の生涯の平均所得のみに依存するというルールに統一した場合、追加的に課す税は下がり、高い厚生効果が得られる。最後に、仮に、家計の税制度を廃止し、所得税は、個人で得られた総所得のみに依存するというルールに統一した場合、既婚女性の労働参加率は飛躍的に上昇し、経済全体を活性化させる。したがって、税制度の変更により、年金システム維持のために、追加的に課す税負担を高く設定しなくてはいけなくなるものの、結果的に、家計の年金制度の廃止よりも、高い厚生効果が得られる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
通常、モデルの構築、そしてそれに付随するパラメーターの設定に多くの時間を要する。なぜなら、モデルが現実経済と一致させるようにしなくてはいけないためである。このゴールのために、違うパラメーターを設定して、モデルを幾度も計算し、それでも改善の兆しが見られない場合には、モデルの構造を変えて、パラメーターの設定を一からやり直さなくてはいけない。しかし、今回は、予想よりも早くモデルが現実経済と一致させることに成功し、比較的早い段階でシミュレーション分析を行うことができた。また、得られた結果も、理にかなったものであり、上述した3つの結果は、どれも興味深いものであった。 もちろん、現在得られた結果は、既存研究と比べると、大きなブレークスルーとはいえず、改善しなくてはいけない点が、多々ある。しかし、それらの点をきちんと考慮し、来年度までには満足のいく結果が得られる見通しが立ったと個人的には思っている。したがって、「おおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
現状、新たに二点、取り入れる計画である。一点目は、移行経路の計算である。これまで得られた結果は、2010年のアメリカ経済と2100年のアメリカ経済を比較したものであるが、どちらも定常均衡同士での比較である。しかし、どのように、古い定常均衡から新しい定常均衡に向かうのか、即ち、移行経路を考えることもまた、非常に興味深い点である。また、この検証は、他の既存研究では殆ど、行っていないため、本研究のオリジナリティを更に高めることが期待できる。したがって、その計算を試みたい。しかし、現状のモデルで移行経路を求めるためには、膨大な計算時間がかかってしまうことが危惧される。そのため、現状のモデルで取り入れている要素をいくつか落とし、多少シンプルなモデルにすることで、本質的な部分はできるだけ残した状態で、計算時間を短くできるようにしていきたい。 二点目は、個人の教育レベルを家計の新たな異質性として取り入れることである。具体的には、個人の学歴が大卒かそれ以下かで分ける。データによると、近年、多くの先進国では、大卒同士の結婚が顕著となっている。例えば、アメリカでは、男女、共に大卒者は、全体の3割であるにもかかわらず、大卒同士のカップルは、全体の2割5分である。この近年の結婚パターンは、年金システムの維持に大きく関連することが予想される。特に、家計の税制度、年金制度 と年金システムの維持との関係性を考えるにあたっては、「どういう人がパートナーであるか」を厳密に考えることは、重要である。また、この観点も既存研究では、ほとんど考慮されていない点であるため、本研究で、是非取り組みたい。
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Causes of Carryover |
2020年度は、直接経費(90万円)のうち、87万円を使用し、3万円余った。これを次年度に繰り越す。 来年度の使用計画としては、新たな物品購入(パソコン機器、専門書等)、学会のための旅費や参加費、そして英文校閲の費用にあてる予定である。また、自分の手元にある、パソコン機器だけでは、大規模な計算の実行が不可能である場合、大学の運営するスーパーコンピューターにアクセスすることも検討している。この使用料は、有料である(例えば、東京大学の運営するスーパーコンピューターを使用するには、年間で10万円かかる)ため、助成金を利用したい。
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Research Products
(2 results)