2021 Fiscal Year Research-status Report
高齢化社会での年金の持続性に関してー家計の観点を考慮した場合
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20K22084
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小寺 寛彰 東北大学, 経済学研究科, 講師 (60881828)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 年金システムの維持 / 高齢化 / 補助的年金制度 |
Outline of Annual Research Achievements |
アメリカには、配偶者年金制度と遺族年金制度がある。これらの制度により、主に結婚を期に働くことを辞めた女性に年金が補填される。本研究は、この二つの補助的年金制度の、進行する高齢化での年金システムの維持へのインパクトを分析した。具体的には、1)補助的年金制度で、将来、年金支出を賄うために必要な若年世代の税負担はどのくらい変わるのか、2)1)による、経済厚生の効果を分析した。 分析のために、まず、モデルを構築した。モデルは、家計の異質性を考慮した世代重複モデルである。ここでは、年齢、資産、生涯の平均所得の異質性を考慮する。また、家計には、配偶者がいる家計と独り身の家計の二つのタイプが存在する。この設定、特に配偶者がいる家計を考えることで、補助的年金制度をモデルに組み込むことができる。 モデルを構築後、その付随するパラメーターを2010年のアメリカ経済と一致させるように設定し、続いて、2060年のアメリカ経済のシミュレーション分析を、補助的年金制度の存在する場合としない場合の二つで行い、比較した。得られた結果は以下の通りである。まず、補助的年金制度の存在で、将来早い段階で、若年世代に追加的な税負担を課さなくてはいけず、その結果、長期的には、将来世代に課す税負担は大きくなることが分かった。そして、税負担がより大きくなることにより、経済厚生の負の効果も同様に大きくなることが分かった。更に、経済厚生の負の効果は、同額の合計所得を稼ぐ配偶者を持つ家計の間で異なることも明らかになった。これは、同額の合計所得でも、夫のみが一方的に所得を稼ぐ家計には、補助的年金制度の恩恵を受けるのに対し、夫婦でほぼ同額の所得を稼ぐ家計には、その恩恵を受けられないという制度的事情に起因している。最後に、これらの結果は、年金制度改革(年金受給開始年齢の引き上げ)を考慮しても、同様に得られることも分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度までは、モデルに付随するパラメーターの設定、そして、2060年のアメリカ経済のシミュレーション分析では、進行する高齢化での年金システムの維持の長期的な変化まで行った。今年度は、更に、長期的な変化に至るまでの移行経路を計算し、年金システムの維持の短期的な変化の分析も試みた。しかし、この分析は多量な計算時間を要する。何故なら、長期的な変化の分析は、モデルを1回だけ解けばよいのだが、移行経路の計算は、モデルを幾度も(正確には150回)計算しなくてはいけないからである。この試みは、非常にチャレンジングなものだったが、どうにか結果を得られることができた。これに併せ、将来世代の経済厚生の変化のみならず、現役世代のそれも定量的に評価することが可能となり、「どちらの世代にも、同額の合計所得を稼ぐ配偶者を持つ家計の間で、経済厚生の効果が異なる」という興味深い結果を得られた。 また、これまで得られた分析結果を二つのセミナーで報告した際(関西マクロ経済学研究会(2021年12月)、応用経済学ワークショップ(慶應義塾大学、2022年1月))、多くの示唆に富むコメントをいただいた。その中で、どちらのセミナーでも得られたコメントは、「補助的年金制度を考慮した場合とそうでない場合とで、シミュレーション分析を比較したほうが、より分析の方向性がクリアとなる」というものであった。このコメントを受け、本研究は、分析自体は大きな変化はないが、補助的年金制度が存在した場合とそうでない場合とで、将来、年金支出を賄うために必要な若年世代の税負担はどのくらい違うのかという分析に方針転換した。 これにより本研究の方向性がクリアとなり、試みたい分析もほぼ終えることができた。しかし、今年度中に完了することはできなかったので、「やや遅れている」と評価した。ただ、来年度までには本研究は完了できる見込みである点を強調したい。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で試みたい分析はほぼ終えたため、残りすべきことは二つである。一つは、研究報告である。今年度では、一つのセミナー(マクロ経済学セミナー(京都大学、2022年5月))、と二つの学会(日本経済学会(2022年5月)、Econometric Society, Australian Meeting (2022年7月))での発表は確定し、他にも、2022年8月までに二、三の学会の発表が入る予定である。そこから得られたコメントをもとに、適宜、追加分析を行い、研究の質の向上をはかる。もう一つは、英文校正である。 英文校正を終えたのち、いよいよ雑誌に投稿する予定である。順調にいけば、8月の終わりか、9月始まりに投稿予定である。
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Causes of Carryover |
本来ならば、今年度までに研究が完了予定だったが、終えることができなかったため、来年度も延長して、同研究を行うことになった。このため、余ったお金を、次年度に繰り越す。 来年度の使用計画としては、主に、学会のための旅費や参加費、そして英文校閲の費用にあてる予定である。
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Research Products
(3 results)