2021 Fiscal Year Research-status Report
財政規律の確保に向けた取り組みに関する理論・実証的検討
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20K22085
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
後藤 剛志 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 講師 (30880223)
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Project Period (FY) |
2020-09-11 – 2023-03-31
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Keywords | 財政規制 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は3点の研究の進捗があった。 1点目に、時間不整合性に直面している政府に対する財政規制の理論モデルについて、政府間関係モデルを参考にしたモデルの構築を目指し、外部研究者との勉強会を開催した。この勉強会を起点としたモデリングに関するディスカッションは現在も継続的に行われており、その成果として理論モデルから「住民の公共財選好が線形である場合には最適な財政規制によって公共財の社会最適な供給が可能となる」という帰結を得ることができた。今後、このディスカッションを更に発展させ、より一般的な選好をもつ住民がいる地方政府において、財の社会最適供給が達成されるような最適財政規制のデザインを行っていく予定である。 2点目に、本研究課題の予備的な分析として実施していた非正規の公務員の増加要因に関する研究論文が学術誌に掲載されることとなった。この研究論文では非正規の公務員の増加要因が行政の業務量増大にあることを示し、正規職員の雇用の関係性のなかで非正規の公務員数が決定されることを示唆したものである。この研究論文では、地方公務員の定員抑制政策という明示的に規制が課されていない政策が実質的な政策効果をもっていたことを示唆する結果も得られたため、本研究課題に関連して規制が明示的かどうかが実質的な効果をもたらすとは限らないという示唆が得られた。 3点目に、本研究課題に関連する研究として実施していた合併自治体の財政規律に関する理論研究が学術誌からの再査読要求を受けることとなった。この研究論文では合併自治体の過大な債券発行が財政規制によって適切なものとなる可能性についても議論を行っている。 しかし、本研究課題に関する研究の学術誌掲載などといった直接的な研究成果は本年度では得られなかったため、本研究課題に関する研究は次年度以降も継続的に進めることとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来より行っている本研究課題と関連する研究の学術雑誌掲載が決まらず、それに伴い、当該研究の改定作業等に時間を取られてしまい、計画に遅れが出ている。 また、計画していた自治体の経常収支比率に関する実証分析については、経常収支比率に換算される非正規公務員の内訳が自治体ごとでかなり異なるということが調査の結果判明し、分析が困難になった。 そのため、従来の計画で想定していた進捗状況としては遅れが生じている状況であると判断される。 他方で、時間不整合性に直面している政府に対する財政規制の理論モデルについては、当初計画していた内容を超えて、より広く一般的な枠組みでのモデリングにも応用可能であるということがわかってきた。具体的には時間不整合性という1つの財政学での課題以外に、公共財の過小供給といった問題にも応用できるという可能性が研究を進める中で見えており、当初の研究内容を超えた広い意味での研究の進捗という意味では順調な研究の進展が見られていると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方向性としては、良い意味で当初の研究計画にとらわれず、財政規制にかかわる学術上の課題について研究を進める方針であり、具体的に3つの方向性で研究を進めている。 1つ目は従来から進めている本研究課題の下敷きとなった会計操作と財政規制に関する研究の推進である。この研究は学術誌での掲載をこの3年間目指し、投稿を行っているが、掲載がなされていないという状況であることから、本年度は外部研究者に論文を「外の目」からチェックをしていただき、内容の改善を図った。今後はこの改善を活かし、学術誌掲載を目指したい。 2つ目は時間不整合性の問題以外にも目を向けて、財政学の学術上の問題となっている課題に対して有用な財政規制のデザインを考えていくということである。当初の研究計画では時間不整合性の問題を主眼として財政規制のデザインを考えることを目指していたが、現実には地方税に対する制限税率など、必ずしも時間不整合性とは関連のないものであっても財政的な規制が課されているものが散見される。研究を進める中で、このような一般的な財政的規制を考える場合でも、時間不整合性の問題に対処するために考えられてきた最適財政規制の枠組みである「Optimal delegation」のモデルの枠組みが応用できるということがわかってきた。そのため、この枠組みを応用することで、より一般的な財政規制の枠組みで最適な財政規制がどのようなものであるべきかについて検討し、理論モデルの構築を目指したい。 3つ目は研究でサーベイした内容を踏まえ、具体的な政策実装に向けた議論を進めることである。本研究の実施期間中にもトップジャーナルを中心に財政規制の研究文脈の蓄積は凄まじいものがあり、アメリカでは政策実装に向けた議論も開始されている。日本でもこの成果をシンクタンクのスタッフや政策担当者に広く共有し、望ましい財政規制の構築を図りたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は新型コロナウイルス感染症の影響で予定していた海外で開催される国際学会への出席が中止され、予定されていた支出額を実際の支出額が下回ったためである。 2022年度は新型コロナウイルス感染症の弱毒化などを受け、経済活動や海外渡航制限が緩和されており、どのような状況になるか不透明な部分もあるが、国際学会への出席を予定しているため、その渡航費に研究費を当てる予定である。
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